弁護士 荒井 剛
2019.03.28

裁判百年史ものがたり

今日は本の紹介をしたいと思います。
ミステリー作家の夏樹静子さんが書かれた
「裁判百年史ものがたり」(文春文庫)
購入して読んだのはもう4年以上前ですがふとまた読みたくなるときがあります。

世間をにぎわせた12つの裁判ドラマが取り上げられております。
ノンフィクションですが本当に丁寧に調べているなと思いました。
読み物としても非常に興味深く、面白く読めました。

12つの事件が取り上げられていますので
時間のあるときに1つずつ読むことも可能です。

この本を読み終えた後、
司法試験を目指そうと思った当初の思いを大切にしようと
思わせる内容でした。

ちなみに、私が司法試験を目指そうと思ったのは「都会の森」というテレビドラマをみたのがきっかけでした。このことは“きっかけは「都会の森」”という別のコラムにしてありますのでそれをご参照ください。http://www.ak-lawfirm.com/column/269

初心を思い起こさせるという意味で、一度、読み終えてはいるのですが、
時間をおいてまた読むことにしています。

最初に取り上げられているのが「大津事件」です。
これは明治時代の事件です。

来日したロシア皇太子を切りつけたという事件です。

当時、日本の刑法には、
「皇室に対する罪」という規定がありました。
これは皇族を襲ったら死刑にするという極めて重い罪でした。

この「皇室」は、特に限定はついていませんが、
当然、日本の皇室を対象にしています。

外国の皇室は想定していなかったと思います。

ただ、このときロシアからの報復を恐れた政府は、
この事件でも「皇室に対する罪」を適用されるようにと、
当時の最高裁判所に迫りました。

しかし、司法は、行政による不当な干渉であるとして
「皇室に対する罪」ではなく通常の殺人未遂罪を適用しました。

この司法の毅然とした態度が
その後の司法の地位を確固たるものにしました。

私は裁判官ではないですが、裁判官を志す者にとっても
この「大津事件」はあまりに有名な事件だと思います。

ちなみに、このときロシア皇太子を襲った人物は、
釧路の刑務所(当時は釧路集治監。いまの標茶町)に収監されたそうです!
https://town.shibecha.hokkaido.jp/gyousei/shibecha_gaiyou/rekishi/syuujikan.html
(標茶町のホームページ参照)
「大津事件」以外の11つの事件も実に興味深いです。
法廷ドラマなどが好きな方であれば絶対に面白いはずです。

ちなみにこの本で取り上げられた他の事件は以下のとおりです。
1 来日したロシア皇太子が襲撃された「大津事件」(明治24年)
2 幸徳秋水らによる天皇暗殺謀議事件:「大逆事件」(明治42年)
3 日本で初めての陪審裁判(昭和3年)
4 東条英機の翼賛政治体制がらみで起きた「翼賛選挙事件」(昭和18年)
5 銀行員の大量毒殺で有名な「帝銀事件」(昭和23年)
6 有罪無罪が二転三転した難事件「松川事件」(昭和24年)
7 ”わいせつ性”が問われた「チャタレイ事件」(昭和26年)
8 共犯者の自白の信用性が問題となった「八海事件」(昭和26年)
9 尊属殺規定が違憲とされた「娘による父殺し事件」(昭和43年)
10 未成年者に対する死刑判決として有名な「永山事件」(昭和43年)
11 不倫をした”有責配偶者”からの離婚請求を初めて認めた「離婚裁判事件」(昭和62年)
12 被害者参加規定の整備に奔走した弁護士の活動:「被害者の求刑」(平成9年〜現在)



以上、本の紹介でした。