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弁護士 久保田 庸央
2016.07.20

とある交通事故訴訟にて(中編)

交通死亡事故被害者遺族との協議を経て、損害賠償請求訴訟を提起しました。今回は、訴訟を提起してから1審の判決が出るまでのお話しですが、やや長めのお話しになります。

訴訟を提起すると、裁判所と原告代理人とで日程調整をして、第1回の期日を決め、事件の相手方に訴状や呼び出し状等が送達されます。

第1回の期日。相手方(被告)は、弁護士を選任しましたが、被告も弁護士も来ませんでした。
一瞬、ひどい相手だと思うかもしれませんが、これはよくあることです。上記の通り、第1回の期日は被告の都合は聞いていませんので、依頼された弁護士が都合があわないことはむしろ普通のことです。法律上も、答弁書という訴状に回答をする書面を提出しておけば、第1回期日は来なくてよいことになっています。原告被告双方の代理人が対峙することになるのは、第2回期日からということがむしろ多いといえます。

第2回期日。この事件については、私は実況見分調書におかしなところがあると思っており、勝算はある程度あると思っているわけですが、死に体を装います。あたかもご遺族の強い意向に屈服し、負け筋の事件を仕方なくやっている感じで(そのような事件を受任すると依頼人のためにならないので私は基本的には負け筋の事件を仕方なくやるような事件は受けませんが…。)。被告の代理人も被害者死亡で目撃者なし、生存当事者は自分に落ち度はないと言っているという状況ですから、負け筋の事件を仕方なくやっていて可哀想とでも思っていたかもしれません。
民事事件は、まず主張の整理というのを行い、お互いの主張のどこが一致していて、どこに争いがあるのかを明らかにし、主張の整理が終わった後に、争いがある部分を証人尋問等を一気に行い、明らかにしていきます。証人尋問を実施する前に、証拠の書類や主張を戦わせ、ある程度事案を明らかにしていくわけで、その際には、相手方が提出した証拠書類の矛盾点をつつくようなこともあります。
証人尋問は、反対尋問を行うなどして、証人が嘘を言っていたり、おかしなことを言っていないかチェックをし、信用できる証言は事実認定に用いられたりします。この事件は、事故の状況についての証人は相手方加害者しかおらず、相手方加害者が証言するであろう相手方は青で交差点に進入したという供述が信用できるかが非常に重要な意味を持つことになり、この点を中心に反対尋問でどのように対処していくかというのが私の訴訟活動のテーマになるわけです。上記の民事事件の流れで、お気づきかとは思いますが、裁判が始まってから、証人尋問が実施されるまでにはタイムラグがあります。このタイムラグの間に、相手方に実況見分調書の問題点に気付かれ、法廷で証言する内容をコントロールされてしまうようなことがあると、それが虚偽と思われるものであっても、反対尋問だけで打ち破るのは中々困難です。この事件の場合は、反対の立場の証人を法廷に出すことはできず、相手方加害者に対する反対尋問は非常に重要となります。それもあり、相手方加害者をなるべく素の状態で法廷に出てきてもらうために、死に体を装っていたわけです。人身事故なので、加害者側が自分に落ち度がないことを証明しなければならず、当方は被告の主張を争う姿勢だけ示しておけば一応足りるので、死に体を装うことができたのです。

主張の整理が終わり、証人尋問をする段階になりました。証人尋問をする場合、陳述書と言って、証言をする人の話をまとめたものが証拠として提出されます。1から10まで法廷で証言してもらうのは時間もかかりますし、法廷で証言するであろう話の概要はつかめるので、反対尋問をする側も証人予定の方の陳述書があると助かります。
証人申請と共に陳述書が提出されました。陳述書の内容は、実況見分調書の内容をなぞるものでした。実況見分調書の内容には問題があるわけですから、私は、この時点で勝機が見えたと思いました。あとは、加害者に、法廷で、実況見分調書の内容に沿う話を気持ちよくお話ししていただけば、物理的にあり得ない証言になるわけで、そのような作業を行うだけとなるのです。

尋問当日。加害者は被告申請の証人ですから、被告代理人から主尋問が始まりました。「!!!!??」
主尋問を聞いていると、上記の陳述書の内容から実況見分調書の内容と同じことを証言するはずが、微妙に違うことを言っている…。
実況見分調書の内容と同じことを証言しているのを固める反対尋問をする作戦を変更しなければならなくなったのです。実況見分調書と違うことを言っていることを鮮明にし、法廷で新たに言い出していることのおかしな証言内容を確定し、その内容を伸ばしてやる…。一般に、一貫して言っているのであれば信用性が高く、話が二転三転するのであれば信用性は高くないので、その点をまず明らかにするわけです。それでも、話が変わったことに合理的理由があれば、変わった後の話も信用できるわけで、新たに言い出した話もおかしいと言えなければなりません。ただし、反対尋問は、いわば敵側の証人を相手にしているわけですから、私が間違っていましたというような展開になるはずはなく、おかしなことを言わせて(言い間違いでは意味がないので、色々な角度から聞くなどして証言を固めます。)、それを伸ばしてやって、尋問が終わった後に、おかしなことを言っているから信用できないという主張をすることにするのが基本といえるでしょう。
反対尋問では、証人が、青でもいつも左右は確認し、この時は、左を見たら被害車両がいて、正面を見て青信号を確認し、再び左を見たら被害車両が迫っていたので、急ブレーキをかけようとし、ブレーキがかかるかかからないかくらいの時に、衝突したと言い出したことに対処することになりました。まず、実況見分調書を示して、今言っていることが違っていることを確認し、私は、交差点に入る前後に左を見て正面を見て再び左を見てからブレーキをかけるなどというのは不可能だと思いましたから、証人の証言を固める尋問を行いました。私としては、証人がおかしなことを言っている形で尋問が終わったと思っており、満足のいく形で尋問を終えました。

証人尋問が終わると、証人尋問の結果を踏まえた双方の代理人の最終の主張がなされ、判決という流れになります。その前に、裁判所から証人尋問の結果を踏まえ、和解案が提示されることが多くあります。
この事件も、証人尋問の期日とは別の期日になりましたが、裁判所から和解案の提示がありました。私としては、証人尋問はうまくいったという認識であり、当然こちら有利の和解案が出ると思っていました。
しかし、裁判所は、証人が嘘をついているとは言えないと妙なことを言い、ただし、生存当事者の話しか聞けていないことから、ゼロでの和解案を提示しました。加害者側は車両の修理費の損害があるとして反対の訴訟も提起していたので、人の死亡の損害は、車両の損傷の損害の何倍にもなるため、原告側は負けだが、死亡当事者の話を聞けていないことを考慮して、修理費は放棄することが妥当ではないかとの考えが示されたのです。
尋問後に和解案が示された場合は、通常、和解案と同様かそれに近い判決が下されます。和解の内容は到底受け入れられず、判決をもらうしかない状況ですが、この時点ではほぼ敗訴確実なので、和解案を蹴るということは、控訴するということを意味することになります。私は、裁判所の和解案を持ち帰り、依頼者の意思確認をし、控訴審の準備のために、加害者が証言していた内容の走行が可能なのかの走行実験を行い、それを証拠化する準備に取り掛かりました。

次回期日。当方は和解を蹴りましたが、被告側も和解を蹴りました。そして、被告側は、立証を補充したいと希望しました。既に、控訴審の準備をしていた私は、この裁判のうちに、走行実験の結果の証拠を出せるのであれば、出した方がよいと思い、被告側の希望に対し、前向きな意見を申し述べました。

後日、当方も証拠を提出し、被告側からも補充の証拠が提出されました。デジタルタコグラフをもとに、加害者が事故現場まで走行していた状況に関する証言内容がデジタルタコグラフのデータ(速度とか、一度も停止していないとか)と合致するから、加害者の証言は信用できるのだという趣旨の証拠でした。
そのタコグラフのデータを見ると、事故直前に、速度が急激に半分程度まで落ちて、そこで記録が途切れていました。事故直前にブレーキをかけ、ブレーキは速度が半分に落ちるまで効いていたということです。
私は、ここに目をつけ、ブレーキがかかるかかからないかの状態ではなく、ブレーキが相当効いていたのであり、加害者の証言が信用できないこと、ブレーキが相当効いていたとすると、相当前から被害車両を発見したりしていないと、そのタイミングでブレーキをかけることはできないこと等の主張を補充しました。

判決期日が指定されました。

判決期日が延期されました。

判決期日が再び延期されました。
判決期日の延期など滅多にあるわけではなく、私は勝ったと思いました。裁判官が当初思い描いていた通りの判決をするのであれば、2回も延期するはずもないですし…。

そして、判決。
判決期日延期に伴う予想の通り、とりあえず勝訴。
しかしながら、和解案の段階では全く逆の見解が示されていたのであり、被告側から控訴されることは目に見えていました。

そして、控訴審では再び波乱が待っていたのです。
つづく