弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 久保田 庸央
2014.05.26

裁判員裁判は誰のための裁判か

先日、私としては3件目の裁判員裁判の弁護人をつとめました。

傷害致死事件の自白事件でしたが、裁判の期日は、起訴(刑事裁判を提起すること)から約5カ月後でした。裁判員裁判の場合は、必ず公判前整理手続(裁判を行う前提として主張や請求証拠を整理する手続)が行われます。今回の事件も、公判前整理手続を経た結果、起訴から裁判までに約5カ月がかかったのです。裁判員裁判がなかったならば、自白事件ですので、起訴から2カ月から3カ月で判決まで行っていたはずで、公判前整理手続自体はスピーディーに行われましたが、裁判員裁判の制度により、判決までかえって時間がかかってしまったということになります。

また、裁判員裁判においては、分かりやすさということも重視されます。裁判が裁判官への説得作業であることからすれば、裁判員裁判であろうとなかろうと、分かりやすいに越したことはないのですが、裁判員裁判においては、分かりやすさのために証拠を加工したりと、行き過ぎた感があります。

刑事裁判は、本来被告人を裁くための場であり、被告人のためのものですが、上記の事情だけでも、裁判員のために裁判をやっていると言われても仕方のない現状にあると思います。



今回は、上記の件とは別に、裁判員に対する配慮の問題を取り上げたいと思います。

この度の傷害致死事件は、事件名からして被害者が亡くなっているわけです。そして、元々検察官が提出する予定の証拠には、ご遺体の写真が多くありました。その写真は非常にむごたらしいものでした。裁判員の方への精神的苦痛を証拠提出による弊害と言うのであれば、弊害があると言えるような写真でありました。

今回の事件が自白事件でしたので、犯罪事実の存否ではなく、量刑が争点となっておりました。犯罪事実の立証に重きを置く必要がないことから、裁判所は、検察官の強い要求にかかわらず、写真の含まれた証拠を採用しませんでした。

検察官側からすれば、今回の事件の悲惨さはご遺体の状況を見ることで一番よく伝わり、犯罪事実の成否が争点ではなく、量刑が争点だとしても、その量刑のための資料として重要というのは当然のことと思います。弁護側からすれば、そのような悲惨な証拠が出ないので、有利と言えば有利なのかもしれませんが、事件に近い証拠が提出されないで、有利な結果が出たとして、はたして本当にそれでよいかについては疑問が残ります。

それでは裁判所がおかしいのかといえば、現場の裁判所の対応としては、福島地裁での国家賠償訴訟の件もあり、裁判員への配慮として、そのような証拠を制限するのもやむを得ないものと思います。

しかし、やはりこれでは、被告人のための裁判というよりは、裁判員のための裁判というほかありません。



裁判員制度の導入に伴い、検察官の証拠開示や取調べの可視化についても一定の弾みがついた側面もあり、裁判員制度から派生した一定の成果はあったのではないかと思っています。しかし、本来の被告人のための裁判を取り戻すことはおそらく不可能であり、裁判員制度には限界が来ているものと思います。裁判員制度そのものを廃止するなり、被告人に選択権を与えるなり、裁判員候補者には参加不参加を名実ともに自由に決められるようにするなり、抜本的な見直しが必要だと思います。