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弁護士 久保田 庸央
2022.01.19

婚姻費用について思うこと

 離婚事件で、離婚が成立するまでの生活を支える費用として、婚姻費用というものがあります。主に、収入の多い方から少ない方へ支払うことになり、双方の収入、お子さんの人数や年齢その他を考慮して金額が定められます。
 裁判所が算定表をHPで公表しており、裁判所に申立をして婚姻費用が決まる場合には、算定表をもとに決められることがほとんどです。

 収入が少ない側からすれば、当面の生活の支えになり、重要な権利です。
 ただ、この婚姻費用は、純粋に生活の支えになるということを超えて、離婚事件の解決内容にも影響を与えることがあります。

 離婚をした場合に未成年者がいれば養育費の支払が問題となります。
婚姻費用は、その養育費に加えて他方配偶者の生活費も含まれます。
ですので、多くの場合は、 婚姻費用 > 養育費  となります。

 これは、結果として離婚が成立する場合、交渉や手続きが長期化することは、婚姻費用を支払う側に不利に作用することを意味します。

 少し極端な事例で、例えば、婚姻費用をもらう側が不倫をして、離婚することとなり、その慰謝料が150万円程度が見込まれ、子供がおらず、婚姻費用が15万円程度となる場合。
 この場合、離婚の交渉や、離婚調停、離婚の裁判等で、1年が経過し、離婚成立と慰謝料150万円が認められたとしても、その間、婚姻費用として月15万円×1年(12カ月)=180万円の支払をしているので、赤字ということになります。さらに言えば、認められた慰謝料150万円の支払能力があるのかという問題もあり、大赤字という可能性もあります。
 この事例で、慰謝料は0として、直ちに離婚を成立させた場合、不倫をした他方配偶者の責任は追及しないことにはなりますが、赤字にはならないため、しっかり争った場合に比べると、数字的には得です。
 そうすると、長期化によって延々と婚姻費用を支払わせられるリスクを回避するために、他方配偶者に対する慰謝料請求権を放棄して直ちに離婚してもらうというのは、一つの解決方法ということになります。

 このような形で、婚姻費用が離婚事件の解決内容に影響を与えることがあるのです。

 上記の事例ほど極端なものでなくても、一般に養育費よりも婚姻費用の方が高く、また、子供がいなかったり、既に成人しているなどして、養育費が発生しない事案では離婚するまでは婚姻費用が発生し、離婚後はゼロとなるわけですから、当事者の交渉姿勢にも影響を与えます。婚姻費用をもらう側は、長期化に伴う婚姻費用の支払のリスクがないため、自分が納得するまでしっかり交渉することが可能な立場となるのに対し、支払う側は、多少不本意な内容でも、長期化リスクを回避するために相手の要求を受け入れざるを得ないという立場におかれます。

 結局、婚姻費用という離婚には直接関係ない要素も含めて、総合的に判断して離婚事件を解決していくことになります。

 私が担当した事件で以下のような事件がありました。
 子供は全員成人して独立した夫婦の妻からの離婚調停の申立事件。あわせて婚姻費用の分担の申立もなされていました。私は、夫側の代理人でした。
 夫側が婚姻費用を支払う立場にありましたから、暫定的に婚姻費用を支払いつつも、早期に解決すべく、離婚に応じることとし、財産分与等の条件を早々に夫側から提案致しました。
 そうすると、申立人は当方の提案に対し、一旦持ち帰るとして次の期日を設けるとしたものの、「ノー」の答え。
 まぁ対立当事者なので、そこまではいいですよ。
 しかし、別の期日を設けているのに、答えが「ノー」だけなんですよ。申立人から離婚の条件が出て来ない。離婚を求めて調停を起こしているのに、離婚の条件を出さない…。さらに、調停期日に弁護士しかきておらず、本人がいないから確認が取れないなどとして、期日を空転させたなどという芸当も…。婚姻費用を支払い続けさせるための時間稼ぎにしても、ここまで露骨なものは中々みることはありません。
 しびれを切らせて、子供の親権を決める等も不要なので、離婚だけ成立させて、条件は後で協議しようと申し入れても、当然「ノー」。
 裁判所からも、離婚を申し入れている側が条件を提示しないのはおかしい等の指導をしていただき、ゆっくりながらも手続は進んでいきましたが、最終的には不本意な内容で合意を成立させました。その後もあからさまな時間稼ぎを延々と続けられることを考えれば、夫側もリスク回避ができて悪くはない解決ではあるのですが、離婚の条件と直接関係のない婚姻費用がここまで解決内容に影響するのは如何なものかと思いました。
 特に、この件は、親権者を定めるべきお子さんもおらず、妻は離婚を求めて調停を起こしていて、離婚自体は夫が応じる態度ですから、離婚そのものの合意はあるわけで、離婚を成立させることに何の障害もありません。
 調停が不成立になった場合には、本件のような婚姻費用の請求は権利の濫用でその請求は認められないという主張をするつもりではありましたが、権利の濫用の主張が通るのは極めて限定的であるため、不本意な内容でも調停が成立する方向に注力せざるを得ませんでした。

請求側、請求される側のいずれの立場になった場合も、上記のような利益状況は想定した上で事件処理にはあたっていますが、度が過ぎているものに関しては一定の歯止めが必要であろうと思っています。