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弁護士 久保田 庸央
2021.03.17

被告は争う姿勢?

 民事裁判を起こす側を原告、起こされた側を被告と言いますが、著名な事件等で民事裁判が起こされると、民事裁判が提起されたという事実のほかに、「被告は争う姿勢」などと報道されることがよくあります。

 世間から注目を集めるような刑事事件と共に、その刑事事件の被害者が、加害者に対して、損害賠償請求訴訟を起こすことがあり、そのような事件で「被告は争う姿勢」などと報道されると、「加害者側の態度はけしからん」との印象を抱く人も多いのではないでしょうか。

 この「被告は争う姿勢」とやらは、一体どういう意味なのかということが問題となりますが、報道を見ていると、「被告は請求の棄却を求め、争う姿勢」ということのようです。

 「請求の棄却」とは、裁判所が原告の請求を理由がないとして退けることです。原告の請求を一切認めないことを裁判所に求めるというのであれば、加害者の態度としてはいかがなものかと思われるのも致し方ないかもしれません。


 ところで、民事裁判が起こされると、裁判所は、原告が提出した訴訟の副本とともに、呼出状を送ります。訴状に対しては、被告の回答と言い分を書く「答弁書」というものを裁判所に提出することになりますが、裁判所は、被告とされた人が困らないように、「答弁書」の書式も同封しています。

 訴状には、請求の趣旨として、かなり簡略化しますが、以下のようなことが書いてあります。
「1 被告は、原告に対し、〇〇万円を支払え
 2 訴訟費用は被告の負担とする
  との判決を求める。」

 これに対して、「答弁書」では「請求の趣旨に対する答弁」として、
「1 原告の請求を棄却する
 2 訴訟費用は原告の負担とする
  との判決を求める。」
 と書くわけです。

 この「請求の趣旨に対する答弁」の内容だと、原告の請求を棄却する判決を求めるわけですから、被告は争っているわけです。

 で、裁判所が同封してくる「答弁書」の書式には
「1 原告の請求を棄却する
 2 訴訟費用は原告の負担とする
  との判決を求める。」
 と不動文字で書かれています。

 原告の請求を認めるというのを選択したり、一部を認めるというのを選択するチェック欄はなく、書式上は、
「1 原告の請求を棄却する
2 訴訟費用は原告の負担とする
との判決を求める。」
としかできないことになっています。

 裁判所の書式を使った場合、「被告は争う姿勢」ではない事件は存在しないことになります。


 弁護士が被告の代理人となる場合、裁判所が同封した書式の「答弁書」を使うことはなく、弁護士自身で作成することになります。
 この場合は、「請求の趣旨に対する答弁」を弁護士自身が作成するわけですが、
「1 原告の請求を棄却する
 2 訴訟費用は原告の負担とする
  との判決を求める。」
 と書きます。
 事件の内容によって、「原告」が「原告ら」になったり、「請求」の前に「いずれも」が入ったりすることはありますが、原告の請求を認めないという趣旨の答弁をすることには変わりありません。
 これは、全額を認めて、支払方法を分割希望という場合でも同様で、「請求の趣旨に対する答弁」は上記の通りに記載して、〇〇円を月〇円ずつ分割希望ということを、同じ書面に記載することになります。

 裁判所の書式を使っていない場合であっても、基本的に、「被告は争う姿勢」ではない事件はないことになります。

 そうすると、原告の請求棄却を求める答弁をした場合を「被告は争う姿勢」とした場合、「被告は争う姿勢」ではない事件は基本的に存在しないことになります。そして、この意味での「被告は争う姿勢」であることは、特別なことでも、異例なことでもない、余りにも当たり前のことです。川には水が流れているというのと同じくらい当然のことで、「被告は争う姿勢」ではないことがあったとしたら、小さな川が干上がって水が流れていないのと同じくらい異例のことです。
 にもかかわらず、「被告は争う姿勢」などと報道することは、当たり前のこと過ぎて無意味であるばかりか、答弁の実情を知らない者に悪印象を抱かせる印象操作の類といわざるを得ず、極めて不適切であると言えます。

 刑事事件から民事裁判になる事件では、通常は損害賠償請求事件となるでしょうが、この手の不法行為に基づく損害賠償請求事件で、原告の請求を裁判所が全額認めることは100%ないと言っても過言ではないくらいありません。裁判所が全額認めるわけではないということは、裁判所から見て、原告の請求が全て適正というわけではないということですから、被告としては、むしろ適正な賠償額か否かは争うべきということになります。
 裁判を受ける権利は憲法でも保障されているのであり、適正な賠償額か否かすら争うことを問題視する風潮があるとすれば、それは是正されるべきでしょう。