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弁護士 久保田 庸央
2020.12.16

表から見るか、裏から見るか

 とある交通事故の裁判。
 例のごとく、交差点で直進同士でぶつかっているのに、両方青信号と主張しているという事件。
 どちらかは絶対に赤だったわけです。
 なお、両方赤ということも物理的にはあり得ますが、信号の見落としや信号無視が同時に起こっていて、かつ、両方共が真実に反する主張をしている確率は天文学的に低いはずなので、無視してよいと思います。

 車の修理費等の賠償を求める物損事件でしたので、相手の過失を証明する必要がある事件でした(人の怪我等の人損の交通事故案件であればこちらの過失が証明されなければよい。)。

 相手の主張は、信号のある交差点を左折して、事故が発生した交差点には直進で入った。左折した交差点では、信号待ちをしたのかどうか覚えていない。

 当方の主張は、進路の前方(約200m先)の交差点の信号が赤になった。この交差点を左折して、事故発生の交差点を右折する予定であったが、赤信号になった交差点で信号待ちして左折すると、必ず信号が赤になるので、信号のない交差点を直ちに左折して、次を右折して、事故現場の交差点に直進で向かった。普通の速度で行くと、事故現場の交差点が青信号になるのに、少しだけ待つことになるので、ゆっくり目のスピードで向かった。自分はタクシー運転手をしており、よく通る道であることから、これらの信号が連動していることはよく知っているというものでした。

 事故の状況は分かりやすくするために若干変更を加えていますが、事故状況のイメージ図の通りです。




 裁判手続き中に、信号のサイクル表(青が何秒、黄色が何秒、赤色が何秒というもの)を取り寄せると、確かに、当方の主張の通り、信号は連動しており、赤信号に変わった交差点の信号が青に変わってすぐに左折すると、必ず赤になるというサイクルでした。また、相手方が信号を左折して事故現場に向かった場合に信号が青であるのは、約2分弱のサイクルのうち、5秒間しかないことも分かりました。

 その後の当事者尋問。
 相手方は、曖昧な供述に終始し、相手方の供述に基づいて事実が認定されることはなさそうな感じ。

 当方の当事者尋問は、上記のような合理的な内容を供述し、相手の弁護士による反対尋問でも何らの問題もない受け答え。
 当事者が主尋問、反対尋問、再主尋問等を終えると、裁判官が自ら尋問しますが(補充尋問と言います。)、裁判官は、その質問ぶりから、ゆっくり走ったとは言っているが、事故現場の交差点が青に変わる前に到達している可能性があるのではないかと思っているようでした。

 相手方の供述は事実認定には使えない…。
 当方の供述は合理的な内容で、反対尋問でもぐらつかず、後から取り寄せた信号サイクル表がその裏付けにもなっている…。
 私としては、これで、相手の過失を証明できたものとして、こちらの勝ちでよいと思うのです。表から観察して、こちらの勝ちということで。

 しかし、交通事故の事故態様については、証明されたものとして事実認定してもよいのではないかと思う事案でも、証明までは行っていないと判断されることがあるように思います。
 で、この件も、事故現場の交差点が青に変わる前に到達している可能性を払拭できないものとして、証明までは行っていないとの取扱いを受けそうになっていたのです。
 尋問後には、事件の進行(判決なのか、和解をするのか)を協議する場面があるのが通常ですが、その中で、裁判官はそのような心証を開示していました。

 このままの状態で判決になると、こちらの請求は通らずに負けてしまいます。
 当方の主張、証拠を表から見ていくと、確かに、少し早く、青信号に変わる前に到達するという可能性がないわけではない…。ただ、そうは言っても、計算をすると制限速度時速40kmのところが平均時速20km程度で走行していたということになり、左折をして、右折をした前提で、意識してゆっくり走ったのですから、特におかしくはないのです。
 表からだけ見ても、当方の勝ちでよいように思うのですがね。

 そこで、裏から見ます。
 裁判官が可能性があると疑っている、当方の車両が事故現場の交差点に青信号に変わる前に到達した場合、相手の車両の側の信号はどうなっているのか。
 信号サイクル表を見ると、その時間は、相手の車両は、相手が左折する交差点の信号が赤となっているのでした。すると、相手の車両は事故現場の前の交差点を左折して通過することはないので、事故現場に到達することはないということでした。
 これは、当方の車両が時速100kmだろうが200kmだろうが、同様でした。というのは、前のサイクルに戻らないと相手が青信号で左折し、青信号の事故現場に差し掛かるタイミングはなかったのです。

 しつこいですが、私は表からだけでも勝ちでよいと思いましたが、最終準備書面では、この裏からの見方を強調して、無事勝訴判決を得ました。
 
 違う角度から見ると、真実が見えることがあるかもしれません。