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弁護士 久保田 庸央
2020.08.19

民法改正に伴う賠償金の変化

 交通事故等の被害に遭って、損害賠償請求をする場合、法律上、その損害額については、事故日から遅延損害金がつくことになっています。
 令和2年4月1日よりも前は、年率5%でした。
 例えば、100万円の損害が生じた場合、1年後には5万円増えて、105万円になるということです。年率5%の定期預金なるものは存在しませんから、かなりの割のいい運用(?)ということになります。この遅延損害金があるため、裁判で加害者側が訳の分からないことを主張するなどして多少解決が長引いても、遅延損害金が増えるから、まぁいいかというようなこともあったりします。

 その遅延損害金。
 民法改正により、令和2年4月1日からは年率が3%になっています(ただし、3年毎に変動する制度となりました。)。
 上記の例で言えば、100万円の損害に対し、1年後に3万円の遅延損害金ということになります。
 今のご時世、3%でも相当よい運用(?)ということにはなりますが、民法改正により、率は下がったということになります。

 一見すると、被害者に不利な改正のように見えます。
 ですが、必ずしもそうとは言えません。

 事故で後遺障害を負った場合、損害の主な費目としては、後遺障害を負ったことの精神的苦痛に対する慰謝料と、後遺障害で労働能力が失われたことに対する賠償の2つになります。
 労働能力が失われたことについては、事故当時の年収に、何%の労働能力が失われ、それが何年分かという計算をすることになります。
 67歳まで働けるとするのが相場なので、37歳の年収500万円の人の労働能力が20%失われましたということであれば、
 500万円 × 20% × 30年分 という計算をします。

 この30年分というのがミソで、多くの人は、単純に30を掛け算するものと思います。
 そうすると、500万円 ×20% ×30 = 3000万円ということになります。
 しかし、実務では、上記の遅延損害金の率が年3%であれば、今の100万円と1年後の103万円は同じ価値であるという考え方をします。労働能力が失われたことについての損害は、将来の労働能力喪失分を、今、賠償してもらうということになるため、1年後の分については、100/103(0.9709)を掛け算して求めることになります。2年後の分については、100/103を2回掛け算して求めることになります。同様に3年後の分は、3回。4年後は、4回……と続きます。
 それらを1年後の分~30年後の分まで全て足すと、19.6004となります。
 上記の例で言えば、
 500万円 × 20% ×19.6004 =1960万0400円となります。

 遅延損害金が年5%だと、100/103ではなく、100/105を掛け算することになります。そうすると、1年後の分~30年後の分まで全て足した数字は、15.3725となります。
 賠償額は、500万円 × 20% ×15.3725 =1537万2500円となるわけです。

 遅延損害金の率を下げる改正をしたことにより、この例では、422万7900円も損害額が上がっています。

 現実の賠償の場面では、裁判をしない限り、遅延損害金の額は考慮しない(カットする)で示談をすることがほとんどです。
 また、裁判をした場合でも、簡易裁判所は安易に遅延損害金をカットした和解案を提案してきますし、地方裁判所でも和解の場合は満額の遅延損害金が得られるとは限りません。

 そうすると、後遺障害を負うなどの重大な被害を受けた場合が前提となりますが、遅延損害金の率を下げる改正は、被害者には有利な改正と言えるかもしれません。