弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 久保田 庸央
2018.07.19

意味を理解しない公式使用

 個人間の法的手続では、不動産の明渡等の事件もありますが、金銭請求の事件がほとんどです。

 損害賠償請求であったり、貸金請求であったり、養育費、婚姻費用の請求であったり…。
 その際、算数レベルではありますが、お金の計算に公式のような計算式を当てはめることがあります。

 例えば、損害賠償請求では、後遺症を負ってしまい、労働能力が失われてしまった場合に、将来得られるはずであった収入(逸失利益)を請求する際に、ライプニッツ係数という数値を掛け算します。裁判実務では、一般に、将来得られるはずのものを一定の時点で一括で払うという扱いをするということと、民法の法定利率が年5%と定められているため、1年後の105万円は、今は100万円という考え方をすることになっています。105万円を現在価値に直す際には105分の100を掛け算するということです。因みに、2年後は105分の100を2回掛け算し、3年後は3回というようになっています(これは複利計算になりますが、実務に定着しています。)。
 将来毎年100万円ずつ得られるはずだというものを3年分請求する場合、100万円に、105分の100を1回かけたもの、2回かけたもの、3回かけたものを全部足すということになります。一々計算すると面倒なので、ライプニッツ係数表というのがあって、3年分であれば、「2.7232」という数字が載っているので、100万円に2.7232を掛け算すれば、272万3200円という数字が出せるのです。「2.7232」というのは、105分の100を1回かけたものが、0.9524、2回かけたものが0.9070、3回かけたものが0.8638であるものを全て足した数字です。
 30年間分であったり、10歳の子が高卒を前提に18歳から67歳まで働くとか、大卒を前提に22歳から67歳まで働く場合などを想定して計算する場合も、ライプニッツ係数表を見て、該当箇所の数字を掛け算するだけで、簡単に数字が出せてしまいます。

 養育費や婚姻費用は裁判所によって算定表というのが作られていて、家族構成ごとの表に払う側の収入ともらう側の収入を当てはめると、6万円~8万円というような枠が定まります。
 この算定表は、払う側の年収が2000万円までしかないため、それ以上の年収の場合は、2000万円の箇所に載っている数字で頭打ちという取扱としたり、裁判所の算定表を作成するために使っていた計算根拠をもとに、手計算することにしたりします。裁判所の算定表を作成するために使っていた計算根拠をもとに手計算する場合には、2000万円を超える収入の人が全額消費するというのは考えにくいため、貯蓄率というのを考慮することがあります。例えば、年収3000万円で貯蓄率10%というのを形式的に当てはめると、300万円を貯蓄に回し、残りの2700万円から税金や社会保険、職業費等を控除して、養育費なり婚姻費用を求めることになります。
 この数字のときは、特に違和感はないかもしれませんが、例えば、年収2100万円のときはどうでしょうか。同じように、貯蓄率を10%とした場合、210万円を貯蓄に回し、残りの1890万円から必要経費を控除する…。こうすると、2000万円までは貯蓄率というものを考慮していないため、年収2000万円ぴったりの人の方が、年収2100万円の人(貯蓄率の影響で1890万円扱い)よりも、支払う婚姻費用等が高くなるという逆転現象が生じてしまいます。審判例では、詳細な検討をしているものが見受けられますが、私が支払いを受ける側で代理人をしていた事件で、裁判所から収入全体に貯蓄率を掛け算する案を提案されたことがありました。上記の通り、収入の金額によっては逆転現象が生じるわけですから、裁判所の案は、本件限りの場当たり的なものです。例えば、2000万円を超える部分に貯蓄率を掛け算すれば、逆転現象は起きないわけで、その部分に多少高率の貯蓄率を掛け算されてもらう金額が少なくなったとしても、筋の通った解決案ですから、当事者も納得しやすいわけです。

 交通事故で怪我をする被害にあった場合の慰謝料算定においては、原則として、通院期間を基準とします。ただし、通院期間に対して、実際に通院した日数が少ない場合は、実際の通院日数の3.5倍程度を通院期間として算定することがあるという例外があります。
 通院期間が6カ月間だったものの、その間、実際に通院したのが、4日だとしたら、例外を適用した場合は、4日×3.5で14日間の通院期間として慰謝料を算定することになるということです。
 例えば、通院期間が3カ月で実際通院したのが8日間だった場合、原則通り、3カ月の通院期間を基準として慰謝料を算定することが多いものと思います。
 通院期間が12カ月で実際通院したのが8日間であった場合、通院期間に対して、通院した日が少ないので、例外を意識しなければなりません。しかし、形式的に例外を適用すると、8日×3.5で28日間の通院期間となります。3カ月の通院期間で8回通院した場合と、12カ月の通院期間で8回通院した場合とでは、12カ月の方が治療期間が長くて怪我が重たいか、少なくとも通院回数が8回で同じなので、同レベルということで、慰謝料としては、12カ月の場合が、3カ月の場合と同じか、それ以上でなければおかしいはずです。
 にもかかわらず、形式的に例外を適用すると、28日間の通院期間となり、3カ月の場合よりも慰謝料が少なくなるという逆転現象が起こるのです。12カ月を通院期間として取り扱うことに躊躇を覚えたのであれば、例外を意識しつつも、逆転現象が生じないように検討し、通院期間を5カ月とか、6カ月に制限して慰謝料を算定すれば、妙な問題は起こりません。
 私が被害者の代理人として関与した裁判で、このような逆転現象が起こる解決案が示されたことがありました。後で裁判官が交代して妥当な解決案が示されて裁判上の和解が成立し、最終的には事なきを得ましたが、いかがなものかと思います。

 上記、いずれの事例も、計算式を形式的に当てはめたことに問題があります。私は個人的には、法学部というのは文系であり、全員がというわけではありませんが、数学が苦手な人が多いことが原因ではないかと見ています。数学な苦手な人の中には、公式を単に暗記して、テストで点を取っていたことが原因で、なぜこのような公式になっているのかということを考えるという姿勢を身に着けてこなかった人が多いのではないかと。
 所得税のように金額によって税率が違うものや、宅建業の報酬のように、報酬の上限額が取引の金額によって率が違うもの、弁護士会の旧報酬規程の報酬基準も事件の経済的利益によって率が違っていましたが、全体に同じ数字を掛けるようなことはなく、例えば所得税であれば、195万円以下の部分は5%、195万円を超え330万円以下の部分は10%というように、部分ごとに率が定められており、逆転現象が生じるような制度はありません。
 裁判所には、果たしてその計算式を当てはめることは本当に妥当なのか、逆転現象が生じるような場当たり的な解決案になっていないかを慎重に検討していただきたいと思います。