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弁護士 久保田 庸央
2017.04.19

無理した格安は悪ではないか

 格安旅行会社のてるみくらぶが破綻し、東京地裁より破産手続開始決定を受けました。お客さんの支払済みの金額99億円に対し、保証金から弁済に充てることができる金額は1億2000万円ということですから、保証金からの弁済は1%程度しかなされないということのようです。一応、配当原資があれば、破産手続の中で一般配当を受ける余地はありますが、配当がなされること自体それほど多くはなく、あっても配当率は数%というのが通常なので、お客さんが十分な弁済受けられる見込みはないものと思います。

 さて、私は、高速バスの事故や、死亡者が出るような食中毒事件などを見て、価格を安くするということは良いことなのかということに疑問を持っています。

 今回のてるみくらぶの破綻は、高速バスの事故等と異なり、消費者に死傷というような生命身体の問題にはなっていませんが、被害者数や被害額が多く、経済的問題のみでも重大な問題であり、価格を安くすることの問題として同様に捉えられるものと思います。

 今回の旅行代金に限らず、夜間バスの格安路線や、レバ刺しの規制の原因となった格安の飲食店など、格安を謳い文句にしている商売は多く行われています。

 価格競争も企業努力にて行われるべきものであり、同じ性能の商品や役務であれば、価格は安い方がよいというのは当然のことだとは思います。

 しかしながら、上記の事故等では、格安を実現するために、従業員の低賃金、過酷労働などが強いられており、それが、安全を阻害する要因になったりしています。消費者からは、安全というものは見えにくく、安全を蔑ろにして、価格競争が行われてしまっているように見えます。いざ、そのような無責任な勤務体制で事故が発生してしまったとして、責任も取れずに経営破綻というのであれば、消費者もたまったものではありません。

 また、格安を実現するために、人件費を削り、従業員に負担をかけるというのもいかがなものかと思っています。安い労働力を確保するために、生産拠点を海外に移転するということがありますが、これだって、労働力を搾取しにいくと言っているようなもので、何だかなと思ったりもします。

 安全を蔑ろにしたり、従業員に過剰な負担をかけたりして、無理して格安を実現することは、一時的には消費者を喜ばせることになるのでしょうが、無理が災いして事故が発生した場合には、消費者を害することになりますし、経営破綻した場合にも消費者を害する結果となり得ます。

 消費者や従業員に迷惑をかけるということはあるのですが、同業他社にも迷惑をかけることになります。無理をしないと実現できない価格で、商売をしている会社があれば、適正な価格で商売をしている会社の顧客が少なからず奪われます。企業努力で適正な低価格が実現された結果、そのような会社に顧客を持って行かれたというのであれば、適正な競争に敗れただけですから仕方ありませんが、無理した格安価格で経営破綻することになれば、破綻した会社は自爆したようなもので、顧客を奪われるなどして迷惑を被る他企業はたまったものではありません。

 このように、無理して実現される格安は、無理な格安商品ないし役務に一時的にうまくありついた消費者を除いて、迷惑そのものであり、トータルでは明らかにマイナスではないかと思います。

 そして、商売においての工夫として、値段を下げるというのは、誰でも思いつく方法であり、発想そのものには価値はありません。

 ですので、無理した格安というのは、何かしらの方法で制限できないものかと思っているのです。

 独占禁止法において、不当廉売は禁止されているところですが、「供給に要する費用を著しく下回る対価」が要件になっていて、安全に対するコストを十分かけていないとか、人件費を抑えすぎであるというものには対応できません。

 どういう制限の仕方が妥当なのかは、私自身も結論は持ち合わせていませんが、一定の人件費率以下を禁止するとか、格安(定義をどうするかという問題はありますが…)を売りにする場合には高額の保証金を積まなければならないとか、価格設定の無理で経営破綻した場合には役員に責任追及するとか考えられないかなと思ったりしています。

 バスで、「安いから席が狭い」とか、「安いから快適ではない」というのはあっていいですが、安いから事故率が高いというのは許されません。

 飲食店で、「安いからまずい」ならいいですが、安いから食中毒を起こすというのも許されません。

 安定的に低価格で商品なり役務なりが提供されることは消費者にとっては良いことなので、どこかに無理を強いることにならない、適正な競争がなされればなと思っているところです。