弁護士 鍛冶 孝亮
2016.07.14

『迷惑な進化』を読んで

1 以前、ネットで、「糖尿病になりやすい遺伝子を持つ人は氷河期の生き残りだ」という話を目にしました。
興味を持ち、いろいろ調べてみたところ、1冊の本にたどり着きました。

 NHK出版『迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか』
[著] シャロン・モアレム[著]ジョナサン・プリンス[訳] 矢野真千子

という書籍です。
普段は読むことがない理系の本ですが、ネットですぐに注文し読破しました
今回のコラムではこの書籍について紹介していきたいと思います。

2 糖尿病とは、血液中の血糖値が高くなり、体に悪影響を与える病気のことです。
糖尿病になりやすい体質は、遺伝するという話を聞いたことがある人は多いと思います。
実は、私の祖母が糖尿病の治療を行っていることもあり、糖尿病と遺伝の話が気になったのです。
では、糖尿病と氷河期はどう関係するのでしょうか。
書籍で書かれていた説明を簡単にまとめると以下のとおりとなります。
「氷河期の寒さの中で生き残るためには、血液が凍って低温にならないよう体の仕組みを変える必要があった」「具体的には、体の中にある水分を少なくすること(多くの尿を排出すること)、血液中の糖分を高めること(血糖値が高いと血液の氷点が下がるため)という体質である」、「そこで、体内の血糖値が下がらないよう、血糖値を下げる作用をもつホルモンであるインスリンが分泌されないか、されるとしても非常に少ないという体質の人が氷河期を生き延びることができた」
というものです。

私たちの祖先は、氷河期を乗り越えるために、このように体の仕組みを変化させたことに感慨深さを感じました。

3 進化とは、自身の生存と種の保存に役立つ遺伝形成を残し、健康を脅かす遺伝形成を嫌うと考えられているようですが、病気になりやすい遺伝子も存在します。先ほど紹介した糖尿病になりやすい遺伝子のほかに、この書籍では、鉄をためこむ遺伝子(ヘモクロマトーシスという病気を引き起こし、最悪の場合は死に至る)を持っていたためペストの大流行から生き延びることができたという話も紹介されています。
病気になりやすい遺伝子というのは、実は何かしらの意味で自身の生存と種の保存に役立っているのではないかということを研究しているのがこの書籍になります。
正直この本を読むまで、聞いたことがなかった考え方でした。

糖尿病の話の他にも、いろいろ遺伝や遺伝子の機能に関する話が書かれています。
荒井弁護士のコラムにもあったお酒が強い人、弱い人の遺伝に関する話もありました。
お酒が強い弱いは、祖先が飲料水をどのような方法で消毒していたのかが関係しているようです。つまり、沸かした水でお茶を飲むなど煮沸消毒をしていたのか、発酵によるアルコールで消毒していたということです。
アルコールで消毒していた地域に住んでいる人は、アルコールを解毒する遺伝子を持っていなければ生存に不利でしたが、煮沸消毒をしていた地域(アジアなど)ではそうではなかったため、アルコールに体質がない人も生き延びることができたとのことです。
そのほか、肥満に関する遺伝の話の中で、妊娠初期に高カロリー高脂肪、低栄養の食品(いわゆるジャンクフード)を中心の食生活をしていると、お腹の中の子どもは、外の世界は栄養分が乏しい世界であると信号を受けとり、体内にエネルギーを蓄積しやすい体質(つまり太りやすい体質)をもって生まれてくるという考えも紹介されていました。

遺伝子に関する説は、実証することは難しいと言われており、この書籍の中でも、理論の裏付けとなる「科学的証拠」が得られにくいと書かれています。
様々な実験や文献などを用いて説明しているため、この書籍で書かれていることは非常に説得的な内容だったと思います。
また、遺伝子の本というと、難しい言葉がたくさん出てきて、読むのが大変だと思うかもしれませんが、この書籍はわかりやすい表現やわかりやすい例えで、読むのに苦労はしませんでした。

4 法律は文系で生物は理系だと言われています。
私は理系に苦手意識はないと思っていますが、社会科学(法律や政治など)について書かれた本を読むことが多かったと思います。
たまには、違う分野の本を読み、知らなかった知識を習得することも大切であることをこの書籍を読みしみじみ感じた次第です。
この書籍をきっかけに、遺伝子に関する本を読むようになりました。
機会があれば面白いと思ったことを紹介したいと思います。