弁護士 小田 康夫
2016.04.07

心臓は20億回打って止まる~謙虚に考える~

昔、ある本で、ヒトも他の動物も同じく、心臓は、20億回打って止まると書かれていました。また、その本によると、一生のうちの呼吸の回数も決まっており、どんな動物も、3億回という同じ回数の呼吸をして死ぬんだそうです。

育ってきた環境が違うから、みんな違うと思っていたこと(昔、そんな歌もありました。)が、同じであったと知った時は、新鮮な驚きがありました。



また、時間の流れ方は、動物の大きさによって変わり、体重が増えると時間が長くなる、具体的に言えば、体重が16倍増えると、時間が2倍になるんだそうです。

体重4キロの犬は64キロの人間の倍の速度で時間が進んでいるという計算になります(時間が早く進むというのは正直よくわかりませんが、犬から見ると、人間の動きがスローモーション映像のように見えているということでしょうか)。

絶対不変だと思っていたことが相対的でしかなかった、同じだと思っていたものが違ったということが分かり、嬉しくなった記憶があります。



一般に、自分が「当たり前だ、当然だ」と思っていることについて他人が違うことを言っているときは、面白くないと感じるものです。

しかし、当たり前であると思って相手を非難するばかりでは、視野が狭くなり、事実の把握を間違うこともあります。

時には、相手の言い分も聞き入れることも必要です。弁護士の業務で言えば、専門知識がある分、法律上意味のある事情のみを聴き、一見、関係ないような生の事実に鈍感になることもありえますから、丁寧に話を聞くことが基本的な姿勢になります。

驕らず、常に謙虚に相手に向き合うというのが肝要で、そのような気持ちで、常に事件処理を心がけていきたいと思っています。



また、弁護士業務の話ではないですが、最近のニュース報道を見ていると、勧善懲悪的な二分論で、一定の価値観を押し付けるようなコメントが流されることが多いように思います。例えば、犯罪報道があれば、逮捕された人=悪い奴で、その逮捕者の犯罪とはおよそ無関係な個人情報がニュースで流されたり、ネットでばらまかれたりします。

しかし、憲法・刑事訴訟法上には、無罪推定の原則があり、逮捕された人も有罪判決が確定されるまで無罪であると扱われるのが法の世界ですし、たとえ逮捕者であれ、犯したとされる罪と無縁な事情全てを公開する意味は乏しいように思います。

絶対不変な価値観はないということを念頭に置きつつ謙虚に物事を考える姿勢が必要で、それがないと情報過多な社会で安易に他者の言動に流されがちです。自分の感覚では一見、理解しがたい事件報道を見る際、安易にコメンテーターの価値判断を鵜呑みにせず、ニュースで報道された断片的な映像ではわからない当該事件の背景事情を謙虚に想像する力が、今こそ、試されているような気がしてなりません。