弁護士 鍛冶 孝亮
2016.02.16

子どもの手続代理人制度について

1 離婚の際、未成年の子どもがいる場合、父と母のどちらが親権者となり子どもを育てていくのか、養育費の額や支払方法、離婚後の面会方法などを、父母が協議して定めるとされ、その場合、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とされています(民法766条1項)

2 しかし、親権者を決める際、自分が引取り育てたほうが、子どものためになると双方が主張し、泥沼化することが多々あります。
  また、離婚後、子どもの面会がなされていないため、面会を求める親が面会交流の調停を申し立てることがありますし、親権者とならなかった親が、やっぱり自分が引き取って育てていきたいと考え、親権者変更の手続を申し立てることがあります。
  その場合、調停を申し立てられた側が、「子どもは会いたくないと言っている」、「子どもは自分と暮らしたいと言っている」など主張し、紛争が長引くこともあります。
  
3 離婚調停、面会交流や親権者変更の手続の際、それぞれの父母が弁護士に代理人を依頼し、手続を進めていくことは多いです。これまでは、家庭裁判所調査官による調査を除き、子どもは手続にほとんど関わってこなかったと思います。
  実は、平成25年に施行された家事事件手続法という法律で、特定の手続において、子ども自身が手続に参加することが可能となりました。
  この制度は、親権者や面会交流の協議の際、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定められているのだから、一番の利害関係がある子どもの意見表明を保障することを目的としています。
  しかし、子どもだけで、実際の手続に参加して、意見を述べることは困難ですので、その手続を手助けするというのが、子どもの手続代理人制度となります。
  ただし、すべての子どもが手続に参加することができるではありません。
  子どもに、自分の行為の結果を理解できる能力(小学校高学年程度の能力があれば認められると考えられています)が備わっている必要があります。

4 子どもの手続代理人は、弁護士が担当します。
  具体的には、子どもと直接面会し、子どもの気持ちを確認します。それを報告書にまとめ、裁判所へ提出します。
  これにより、面会交流や親権者について、子ども自身がどのように考えているのかを裁判所や父母が理解できるわけです。
  また、手続代理人が、子どもの意向を確認しながら、面会交流の実施を調整する活動も行うと聞いております。

5 子どもの手続代理人制度を利用する一番のメリットは、子どもの意思が手続に反映される点だと思います。
  例えば、子どもの母が弁護士を依頼した場合、その弁護士はあくまでも母の代理人です。母の意向に従って活動しなければなりません。
  子どもの手続代理人は、子ども自身の代理人ですので、子どもの父母の意向ではなく、子どもの意思、そして利益を優先に活動します。
  例えば、母が依頼した弁護士が、「子どもの意向は○○だ」と父側へ伝えたとしても、父としては、母が依頼した弁護士なのだから、母の意向に従っているだけだと考え、納得できない場面もあるかと思いますが、子どもの手続代理人が述べたのであれば、納得できるという面もあるかと思います。

6 このようなメリットがある制度ですが、実はほとんど使われておりません。
  どうしてかというと、このような制度があることが広く知られていないこと、そして、費用の点があります。
  裁判所が子どもの手続代理人を選任した場合、本来であれば代理人となった弁護士の費用は国が負担すべきですが、現在は国が負担する制度となっておりません。実際は、父母の双方で負担しているようです。
  日本弁護士連合会では、手続代理人の費用を国が負担するよう活動を行っております。近い将来、国費から手続代理人の費用が支払われ、この制度が普及していくこと願っております。
 
7 この子どもの手続代理人制度が使われることは、紛争解決に資することになりますし、何より子どもの意思を最大限に尊重した結果を導けることになると思います。
 私は、釧路弁護士会の子どもの権利委員会のメンバーとして、この手続が普及するよう活動を行っております。
子どもの手続代理人の選任方法は、少し複雑なのでここでは詳細な説明をしませんが、子ども自身だけでなく、実際に手続を行っている父母からも申立てを行うことができます。
もし、現在、子どもに関わる手続を行っており、この制度を利用してみたいとお考えになっている方がいらっしゃいましたら、お気軽に御相談いただければと思います。