「早くて、うまくて、そこそこ安い」~労働審判手続~
日々の相談業務を行っていると、「従業員が依願退職した後に、解雇が無効だと言ってきた」「突然、就業先から解雇された」、「賃金を不当に減額された」など、労働者個人と使用者との間の労働トラブルの相談を受けることがあります。
このようなトラブルを終局的に解決するには、訴訟を提起するのが一般的ですが、訴訟手続は、解決までに1年以上かかる場合もあり、個人である労働者の中には、紛争解決までに多くの時間(それに伴う手間・費用)などの負担が大きいため、訴訟提起を諦める方もいます。
このような場合にオススメなのが、「労働審判手続」です。
労働審判手続は、裁判官の他に2名の労働審判委員が関与する手続きです。委員には、使用者側から選出された委員と労働者側から選出された委員がおり、各委員は、中立公平な立場で審理を進めます。話し合いがまとまれば、調停(和解)で終了しますが、調停が成立しない場合でも、労働審判を行うことで紛争解決を図ることができます。審判がでても、不服があれば、訴訟に移行しますが、異議がなければその審判が判決と同じ効力、すなわち、相手の財産を差し押さえるなどの強制力を持った効果が与えられます。
そして、①労働審判手続は、申立てから40日以内に第1回目の期日が開かれることが原則となっています。また、3回の期日で審理を終了させることが予定されており、裁判所での平均審理期間は70日前後となっています。このように労働審判手続は、訴訟手続と比べて「早」期解決を図ることが可能です。
また、②訴訟手続では、当事者が裁判所に出頭したり、直接発言をしたりする機会は少ないのと比べ、労働審判手続では、当事者双方は、期日に出頭を求められ、労働審判委員から直接、質問を受けます。当事者は手続きに参加しているとの実感が得られるため、当事者の満足度も高いとされています。このような満足度の高さが労働審判手続の「うま」みと言えるでしょう
加えて、③費用面でも、通常の訴訟手続きより、印紙代は「安」く設定されています。
特に、争点が多い労働事件の場合には、紛争が長期化する可能性が高いため、資力の乏しい労働者個人においては、紛争の早期解決が期待できることは大きな魅力といえます。また、使用者としても、労働者に対し、直接、発言できる機会が与えられ、解決も早い点で、メリットがあります。
以上のように、労働審判手続は労働トラブルを解決するための有効な制度の一つですが、この制度も決して万能なものではありません。当事者間の対立が激しい場合等、事案によっては、無用に紛争を長期化させるおそれもあります。「労働トラブルを抱えているが、どうような手続きが取ればよいのかわからない」「訴訟以外の方法が知りたい」といった手続選択に関する質問に対し、適切な手続きを助言するのも弁護士の仕事の一つです。些細な疑問や質問があれば、お気軽にご相談いただければと思います。