弁護士 荒井 剛
2015.11.26

事件を受任するにあたっての心構え

~相談に入るまで~



弁護士業務にかかわらずすべての業務にも同じことが言えると思いますが何より大事なのは「事前準備」だと思っております。そして、事前準備が大事だというのは、法律相談を行う際にも当てはまります。法律相談のご予約をしていただく際、相談の概要を事務員にて聞き取らせていただいております。これは利益相反の問題(紛争当事者の相手方から先に相談を受けている場合、典型的なのは離婚でもめている妻もしくは夫のいずれか一方から先に相談を受けていた場合には、相手方の相談は受けられないという問題)がないかチェックするということのほか、少しでも法律相談を実のあるものにしようとするためです。事前に概要を把握することで、おおよそどのような紛争なのか、そして、どこに法的な問題がありそうか等と当たりをつけることができるからです。もちろん、実際にお話を伺うとまるで見当はずれな予測をしていたということもありますが、事前に多くのことをシミュレーションすることが自分の勉強にもつながると思っております。



~相談から受任に至るまで~



さて、実際に法律相談を経て、事件として受任するということになったとします。

このとき大事なのは、事件として正式に受任するに際し、事件の大枠を把握したうえ、今後、この事件がどのように流れていくのかできるだけ細かく予測するということです。私が弁護士になって1年目、当時の事務所のボスから言われていたのは、弁護士として一番時間をかけるべきなのは事件を受任する時だということでした。相手がある事件では、とにかく予想される相手からの反論や判明しているこちらのウイークポイントをできるだけ洗い出し、それを一つ一つ潰していくという作業を行うということです。もちろん依頼者から正確な事実・情報の提供を受けていることが大前提になります。また、依頼者にとって不利益な事実や書類等があればそれを含めて事前にきちんとお伝えいただきたいと思います。このような有利・不利な事実を含め、最初におおよその事実を把握したうえできっちりシミュレーション作業を行っておけば予測と大きく外れることはありません。そして、これを前提に弁護士費用を決めることになりますので依頼者との信頼関係も築けるのではないかと思います。これをせずに漫然と事件を受任してしまいますと、途中で軌道修正が利かなくなったりします。依頼者も当然不安に感じてしまいますし、弁護士自身も気持ちに余裕を持つことができなくなり他の事件処理にも悪影響を及ぼしてしまうという悪循環にも陥ってしまいます。したがって、何より事件のはじめに徹底してシミュレーションしておくことが重要であり、それが事件を受任するに際しての弁護士としての心構えではないかと思っております。といいつつ、実際にすべての事件でできているかといえばまだまだ不十分であり、もっと努力する必要があるなと思っております。



最近、弁護士の数が増えたためか、せっかく司法試験に合格して弁護士になったものの就職先がないという話を聞きます。その影響があるのかもしれませんが、残念ながら、十分に事件の予測をしないまま弁護士費用欲しさのあまり、漫然と事件を受任してしまったり、あるいは深く考えずに裁判に持ち込んでしまったりする弁護士が散見されます。

お前もそうではないかと言われないため、あらためて自分に言い聞かせるためにも今回このようなコラムを書いてみました。