弁護士 久保田 庸央
2014.10.30

相続放棄と生命保険

誰かが亡くなったときには、相続が問題となります。

亡くなった方の財産がプラスのときは、その財産を相続人で分ければいいので、特に問題はありません(相続人間での争いはありますが…)。

では、亡くなった方の財産がマイナスの場合はどうなるでしょうか。

借金が典型ですが、誰かにお金を支払わなければならない債務も相続の対象になります。ですから、例えば、親が亡くなって子が相続した場合、親の借金を子が支払わなければならないことになります。

しかし、必ず借金等も相続しなければならないとすれば、自分で作った借金でもないのに、相続人であるというだけで、随分ひどい目にあってしまうことになります。

そのようなことにならないため、相続放棄という手続があり、相続人は、自分が相続人であることを知ってから3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の手続をとれば、亡くなった方の借金等は支払わなくてよくなります。ただし、例えば、親の家は相続するが、借金は相続放棄するというように、プラス財産とマイナス財産を都合よく選択して、手続するようなことはできず、全ての財産をひっくるめて、相続するのか相続放棄するのかを選択しなければなりません(他に、限定承認という方法がありますが、この方法でも借金は払わずにプラス財産だけ取得するようなことはできません。)。

相続人としては、亡くなった方の借金等を背負わされるのを回避することはできますが、借金は払わずに都合よくプラス財産だけもらうというようなことはできないわけです。



ところで、亡くなった方が、生命保険をかけていて、相続人の一人が受取人になっていた場合はどうなるでしょうか。仮に、亡くなった方が借金が多くて、その受取人の相続人が相続放棄をした場合を想定します。

この場合、生命保険金は遺産ではないので、相続放棄をしていても、生命保険金は受け取れることになります。債権者から見れば、いいとこどりをしているようにも見えますが、相続人にお金を貸したわけではないですし、ご遺族の今後の生活もあることですし、この結論は概ね妥当といえるのではないでしょうか。



では、亡くなった方が実は犯罪を犯していて、被害者が亡くなった方に対して、損害賠償請求権を持っている場合はどうでしょうか。

結論としては、この場合も、相続放棄してしまえば、損害賠償義務はなくなり、そして、生命保険金を受け取ることが可能です。

この場合も遺族の生活というのはありますが、個人的には、犯罪被害者の賠償を差し置いて、犯罪被害者の犠牲のもとに成り立たせる犯罪者の遺族の生活というのはいかがなものかなと思います。犯罪者の遺族は犯人ではないので、手出しで賠償する必要まではないですが、生命保険金くらいは賠償金にあてればいいのかなと思うところです。

しかし、犯罪者遺族が生命保険金を被害弁償にあてなかったとしても、それを強制する法的な手段はありません。上記は、あくまでも個人的な価値観ですが、それが正しいとすれば、立法的に解決がされるべきものと思います。具体的な方策はいろいろなものが考えられ、方策の内容によっては保険会社の保護等、検討しなければならない問題は多岐にわたるおそれがあり、一筋縄にはいかないとは思いますが…。