弁護士 荒井 剛
2013.10.22

”Freeze”服部君事件について(1992年)

先日、とあるテレビ番組を見ていたところ、

20年以上前に起きた「服部君事件」が取り上げられていました。



1992年10月17日、アメリカ(ルイジアナ州)に留学していた16歳の服部君が

現地のアメリカ人に射殺されるという不幸な事件が発生しました。

10月下旬といえば、アメリカではちょうどハロウィーンの時期です。



服部君は、友人とともに、

仮装パーティーに行こうとしたところ、

間違って別の人の家を訪れてしまい、

家人に「フリーズ」(動くな)と言われたそうなのですが、

その意味がわからずそのまま近寄って行ってしまった結果、

射殺されてしまったという事件です。

刑事事件では正当防衛の主張が認められ無罪になりました。



アメリカでは日常の社会ニュースの一つという程度の取扱いでした。

日本国内では大きくニュースとして取り上げられ、

刑事事件で無罪になったときも日本であればおよそ考えられない判決だと

マスコミも大きく報じていたことを記憶しております。

アメリカでは、日本国内での過熱報道ぶりが逆に話題になっていたほどです。

日本での過熱報道ぶりがアメリカでニュースになりました。

銃社会のアメリカとの違いをまざまざと見せつけられたという記憶があります。
ただ、服部君のご両親の活動や彼らを支援する人たちの動きにより、

アメリカでもこの服部君事件を契機に銃規制の声が強くなったことは事実ですし、

時限立法ではあったものの銃規制法(ブレディ法)が可決されることにもつながりました。



服部君事件が起きた当時、私は大学1年でした。

父親の転勤で私自身、アメリカで生活したこともあり、

ハロウイーンの時期には仮装して友人と一緒に家を回ったりしたこともありました。

そのため、個人的にもかなりショックを受けたという記憶がありました。

ところで、アメリカの刑事裁判制度では日本と違い、

一度、無罪判決が出れば検察側は控訴できず無罪が確定します。

その制度自体、刑事手続きとしては優れてはいますが、

何か釈然としない気持ちを抱いておりました。



この服部君事件、たしかに、刑事事件では無罪となってしまいましたが、

賠償金の支払いを求めた民事事件では完全に勝訴していたという事実を知り、

大変、驚きました。



民事事件の判決は被告に対し、

服部君の両親に対して7000万円を支払うよう命じました。



刑事事件では、服部君が被告人の本当に目の前まで迫ってきたこと、

そして、凶器らしき物を手にしていたと思い、恐怖を感じて身を守るため

やむなく至近距離から撃ったのであり、正当防衛であるとの被告人の主張が

陪審員に認められました。



しかし、民事事件(損害賠償請求)では、

現場に残された血痕の付着した場所から分析した結果、

被告と服部君との距離は、服部君が手を伸ばしても被告に届くほどではなかったこと、

また、被告自身、服部君が凶器らしき物を持っていなかったと刑事事件とは矛盾する

証言をしたこと等から、正当防衛は成立しないと判断されました。



この民事事件で勝訴するに至ったのは、

無罪となった刑事事件の内容に疑問を抱いていたアメリカの弁護士の良心と、

服部君の両親の熱意があったからこそだと思います。



服部君の両親とチャールズ・ムーア弁護士に敬意を表したいと思います。

なお、被告は、約1000万円を被害弁償した後、自己破産し、

現在は所在不明になっているとのことです。



番組の中で紹介された、

「彼(被告)も銃社会のなかの被害者の一人だと思う」

という服部君のお母さんのコメントがとても印象的でした。
今でもアメリカ国内等では、

銃の乱射事件や幼い兄弟姉妹が銃の暴発により命を落とすという悲劇が発生しています。



銃がない社会が理想だとは思いますが、

これまで所持が認められていたところ、

突然、所持自体違法にすることはさすがに難しいとは思います。

しかし、少なくとも販売店に銃を購入しようとする人物の犯罪歴を警察に照会して、

犯罪歴がある人物には販売しないという規制は最低限必要ではないかと思います。

フレディ法はまさに販売店に上記内容を義務付ける内容でしたが、

議員らの否決により、延長されずに失効してしまっています。
自分の身は自分で守るしかないという考えは否定しませんが、

どう考えてもフレディ法程度の規制は必要ではないかという気がします。

アメリカの銃社会の不合理性をドキュメントにした映画としては、

マイケル・ムーア監督の「ボーリング・フォー・コロンバイン」が有名です。



ちょうど、当事務所の鍛冶弁護士のコラムにも

マイケル・ムーア監督の名前が挙げられていましたので、

あわせて紹介しました。



ちなみに、日本の法律では、拳銃を所持していただけでも

1年以上10年以下の懲役になりますし、

拳銃の弾も一緒に所持していたら、刑がぐんと重くなり、

3年以上の懲役となっております。