弁護士 荒井 剛
2012.04.27

きっかけは「都会の森」

私が弁護士になろうと思ったのは高校二年の夏でした。きっかけは、ささいなことです。たまたま当時みていたドラマに影響を受けたからでした。

高嶋政伸さん主演の「都会の森」というドラマでした。主題歌は、徳永英明さんの「壊れかけのRadio」です。高嶋さん演じる主人公は、弁護士になったばかりです。その主人公が取り組んだ刑事事件の被告人が本当に犯人なのかどうか、ストーリーが二転三転した結果、最終回で被告人に対し無罪判決が言い渡され、主人公が法廷で恥ずかしいほど号泣するというものです。

無罪判決で号泣しているシーンは大げさかもしれませんが、単純な性格である私の眼にはすごくかっこ良く映った記憶がありましたし、思わず泣いてしまいました。

ドラマの内容はもう二十年近く前のことですから詳細は忘れましたが教え子を庇うために虚偽の自白をした教師である被告人が弁護人に対してもしばらく嘘を突き通していたと思います。しかし、何かひっかかるものを感じ、被告人が無実だと信じる主人公が時間をかけて調べていき真実を知り、苦悩しながらも、やはり庇うのは誤りであって庇うことは教え子にとってもよくないと被告人を説得して、ようやく無罪判決を勝ち取ったというものだったかと思います。

庇われた少年も過剰防衛だか緊急避難にあたるとしてお咎めがなかったかと思います。現実の世界では、そもそも被告人には犯人隠避罪の成否が別に問題となったり、少年も本当であれば、少年法にもとづき少年審判が行われるはずですが、そこはドラマなのでせっかく庇った教師が無罪判決をもらっても少年がブタ箱にはいってしまったら感動が薄れてしまいますのでドラマとしては気分よく見終わることができました。実は、江口洋介も出演しており、ドラマとしても結構楽しめました。

よく弁護士になろうと思ったきっかけはと聞かれることがあるのですが、本当に何気なく見ていたドラマがスタートでした。とはいえ、その後すぐに弁護士になれたわけではなく司法試験に合格したのは28のときでした。また、刑事弁護人に憧れていた割には、司法試験合格後の司法修習生時代の刑事弁護科目の成績はいまいちでした。いまいちどころか授業が終わった後、教官にこっそり呼び出しを受けていたほどでした。

しかし、それがあったからこそ刑事事件では、謙虚に取り組み、被告人の話をじっくり聞き、なにか引っかかるものがあればとことん確認し、被告人が無実である、あるいは、起訴事実の一部が間違っていると信じられたら絶対にあきらめない姿勢で臨めているのではないかと思います。

ここで誤解してほしくないのですが、被告人が嘘をついているなと感じながらもあれやこれやといちゃもんをつけて無罪を争うべきと言っているわけではありません。弁護士になって100件以上刑事事件に関わってきた実感として間違いなくいまでも冤罪が発生しています。

検察側の立証が結果的に不十分なため無罪になるケースもありますが、立証以前の問題でまったく無実の人が起訴されてしまうケースが起きているのです。無実の人が間違って裁かれるのだけは避けなければいけません。

今後ももし自分が刑事事件に関わり、被告人が冤罪を主張し、それが信じられるのであればあのドラマのように苦悩しながらも最後は法廷で無罪判決を聞いて涙したいと思っています。