弁護士 久保田 庸央
2022.06.22

相続放棄のあれこれ

 親が多額の借金を残して亡くなった…。
 そんなときには、相続放棄をすればよいと思いつく方も多くなってきたのではないでしょうか。

 相続放棄の手続きは、相続放棄の申述と言って、家庭裁判所に申し立てることになります。家庭裁判所が受理の審判をすることで、相続放棄の手続は一応完了です。

 この相続放棄ができる期間ですが、3か月です。
 いつから3か月か。
 条文上は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」(民法915条1項)から3か月となっています。

 亡くなってから3か月以内であれば、相続放棄ができることに特に問題はないですが、よくご相談を受けるのは、亡くなってから半年や1年が経過してから、請求書が届いた場合や、亡くなってから大分経ってから、故人名義の建物が老朽化しているとして撤去するなどを要請する文書を受け取った場合などです。
 このような場合、故人と疎遠であったりするなどして、相続財産は全くないと認識していて相続については何もしていないということが多いです。結論として、このような場合、相続人のおかれている状況をしっかりと記述し、相続放棄の申述をすれば、受理されることがほとんどです。
 相続財産が全く存在しないと信じていた等の一定の事情がある場合には、「自己のために相続の開始があったことを知った時」は、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時等から起算されるからです。
 また、相続放棄の申述は、却下すべきことが明らかな場合以外は受理すべきと考えられており、比較的緩やかに受理されることも影響しているものと思われます。

 この相続放棄の申述が受理された場合のその後の処理についてです。
 通常は、請求書などを送付してきた債権者等に、家庭裁判所で発行してもらえる相続放棄の申述の受理証明の写しなどを送付すれば、終わりです。相続放棄の手続きが取られているということで、請求等は断念することがほとんどです。

 では、相続放棄の申述が受理されれば、絶対に安心かというと実は違います。
 例えば、故人に金を貸していたから相続人が払えという民事裁判が起きた場合。
 相続放棄の手続きをとったのであれば、反論として、相続放棄の申述が受理されたと主張します。
 これに対し、請求側は、その相続放棄は無効だなどと再反論します。
 え?家庭裁判所が受理したのに、そんなのアリなの?という疑問が沸き上がりそうですが、アリです。
 請求側は、相続放棄が無効である事情を主張立証すれば、請求は通ります。
 相続放棄の申述は受理されなければ相続放棄をした旨の主張すらできないので話になりませんが(受理されなかった場合の不服申立制度はあります。)、受理されたとしても、家庭裁判所が相続放棄にお墨付きを与えるような効果はないのです。
 無効になる場合には、相続放棄の申述の前後を問わず、相続財産を処分してしまったり、遣ってしまったり等、遺産を相続したことを前提とする行動をした場合や、3か月の起算点との関係でそもそも相続放棄の熟慮期間が経過していたと評価される場合などが考えられます。

 故人が亡くなってから3か月が経過していたとしても、相続放棄の手続はとれないものと諦める必要はありませんが、将来的なリスクを考えると、故人が亡くなってから3か月以内に相続に関する方向性を決め、仮に相続放棄をするのであれば、遺産について余計なことはしないように注意する必要があるものと思います。