弁護士 鍛冶 孝亮
2022.06.15

はなしがながいね

1 自宅に幼い子どもがいると、今のテレビのチャンネルがNHKのEテレになっていることはよくある話だと思います。
  先日、つけっぱなしになっていたテレビの画面で、NHKのEテレの「えるえる」という番組が放送されていました。
  この番組は、小学校1~2年生向け国語の番組で、妖精のキャラクターと一緒に、クイズや遊びを通してコミュニケーションスキルを磨くことを目的とした番組です。
  たまたま見た回は「はなしがながいね」というタイトルでした。
登場人物の一人が仲間の妖精に、昨日の出来事を長く話してしまったことで伝えたいことが伝わらず、コミュニケーションが取れなくなったときに、「だれが」「どうした」でしぼって話せば短く話すことができるというアドバイスを受けて、短く話すことを覚え対話スキルを磨いた内容でした。
https://www2.nhk.or.jp/school/movie/bangumi.cgi?das_id=D0005150554_00000

2 この番組を見て感じたことですが、話はできるだけ短くするということは、小学校1~2年の段階で学ぶべきコミュニケーションの基本であるということです。
  一方で大人でも話が長い人は珍しいことではありません。
  自分も法律相談中に、ついつい話が長くなってしまうことを思い出し、この番組を見て反省しました。

3 話が長くなってしまう理由としては、緊張しているとか、一度に言いたいことをすべて伝えようとしてしまうなどあるようですが、何かを伝えるというよりも何かを隠そうとしていることや別のことについて質問を受けることを恐れているということもあるようです。
  話が長いと聞いている相手にそのように思われてしまうということもあるので注意が必要といえます。
  通常は、相手方が自分の話を聞いているのかどうか(あいづちを打つなど)を確認しながら話をしていると思いますが、聞いているほうが話を切り上げたい態度を出しているにもかかわらず話を止めない人の場合、そもそもコミュニケーションを取るために会話をしているのではなく、相手が聞いていようがおかまいなしに好きなことを一方的に話しているだけではないかと思います。
  
4 弁護士として仕事をしているときに話が長くなる場面としては、前記の法律相談のときや裁判所で尋問を行うときです。
  法律相談のときに、法的なアドバイスを行うのですが、法律的な見解をわかりやすく伝えたいと考え、ついつい話が長くなってしまうのではないかと思います。
  裁判のときに、依頼者に、当事者や関係者の立場で、裁判官の前でお話をしてもらうこともあります。
  始めて裁判に参加する人の場合、とても緊張されていることもあり、質問された範囲を超えて話をしてしまうこともあります。例えば「Aさんにいつお金を貸しましたか」という質問に、「○月○日、Aさんからお金を貸してほしいと電話がきました。○○という理由で貸してほしいとのことでした。そこで……」という回答してしまう場面です。
  裁判所の尋問の場合、質問に対応する短い回答が必要となりますので、できるだけ短く答えてほしいとお願いするようにしています。

5 長い話といえば、お酒が入った場面で、酔っぱらって同じ話を長々する人もいます。
  この場合は、アルコールにより脳が麻痺するとともに脳内ホルモンが活性化するからといわれており、自分自身で制御することは難しいかもしれません。
  飲みニケーションという言葉がありますが、若い世代では否定的にとらえている人もいるようです。
  アルコールの力も借りながらお互い腹を割った話をすることでコミュニケーションが成立しているのであれば有意義な時間だとは思いますが、酔っぱらった人だけが延々と同じ話をして一方はただ聞くだけという状態だともはやコミュニケーションとはいえないと思います。
  自分が話す割合よりも相手の話を聞く割合が高いほうがコミュニケーションを円滑に進めることができると聞きます。
アルコールの効果で話したい状態なのをぐっとこらえて、聞き上手に徹することができると周りからの印象が良くなるかもしれません。
男女間の場面では、自分の自慢話などを女性にするよりも、女性の話を上手に聞ける男性のほうがモテるようです。

6 弁護士の仕事をしているときにはじめてお客様と会うのは法律相談です。
  法律相談では、相談者が希望している質問内容を把握し、的確にアドバイスすることが求められます。
  注意しなければ、しっかりとしたアドバイスしなければと考えついつい話が長くなり、聞取りが不十分となったり、こちらが伝えたいことが伝わらず、お客様とコミュニケーションが図れないということになってしまいます。
  長い話をしないことはコミュニケーションの基本であることをEテレの番組を改めて感じました。