弁護士 鍛冶 孝亮
2022.01.12

弁護士にとっての金と銀

1 日本漢字能力検定協会が発表した令和3年の「今年の漢字」は「金」の漢字でした。
  東京オリンピック・パラリンピックで多くの日本人選手が活躍して史上最多の金メダルを獲得したこと、二刀流として活躍した大谷翔平選手が大リーグのMVPを受賞し松山英樹選手が日本人初のマスターズの制覇など日本人による金字塔が打ち立てられたこと、新型コロナウイルス感染症対策として給付金が支給されたことなどが応募総数の中で一番多い漢字となった理由ではないと分析されているようです。
「金」という漢字は弁護士とも関係があります。
  弁護士に依頼するとお金がかかると考えた人がいるかもしれませんが、今回書こうと思ったのは弁護士バッジの話です。

2 メッキがはがれるという言葉は、うわべでごまかしきれなくなり隠されていた正体が明らかになるという悪い意味で使われます。
  弁護士同士でも「メッキがはがれてきましたね」という話をすることがありますが、これは相手を罵っているわけではなく、弁護士バッジの金メッキがはがれてきているという意味で使っています。
  弁護士バッジは実は純銀でできていて金メッキをしているため金色に光っていること、年月とともに金メッキがはがれてきて銀色となるという話は、いろいろな弁護士が紹介している話であるため、ご存知の方も多いと思います。
  一方、本物の金製のバッジにすることができるという話は、弁護士でも知らない人もいます。
  始めて弁護士登録したとき、日本弁護士連合会から銀製の弁護士バッジが交付されます。この費用はかかりません。
しかし、銀製のバッジを返還し所定の交付費用を支払うことで、金製のバッジを交付してもらうことができます。これは、日本弁護士連合会の弁護士記章規則で定められています。
  金製バッジの交付費用は8万4600円とされています。
  ちなみに、弁護士バッジは、日本弁護士連合会から貸与されているものであるため、弁護士を辞めることになった場合には、返還しなければなりません。
  交付費用として8万4600円を支払い金製バッジに交換しても、いずれ返還しないといけないことになります。
ちなみに、銀製を紛失した場合、交付費用として9430円を負担しなければなりませんが、金製バッジの再交付は同じ8万4600円を負担する必要があります。

3 私の身近な弁護士で、金製バッジを付けている人は聞いたことがありません。
  弁護士の中では、バッジが金色をしていると弁護士になりたてだと周りに思われるので、メッキがはがれた銀製バッジを好む人もいます。
  早く銀色にするために、磨いたり小銭入れにいれてメッキをはがそうとする人もいるようです(同期の弁護士でそのようなことをした人も聞いたことがあります)。
  個人的には、バッジだけ経験がある弁護士に見せても中身が変わるわけではなく、それこそ弁護士経験のメッキがはがれ信用を失いますので、何もいじらず自然に銀色になるのが好ましいと考えています。
  下の写真は私の弁護士バッジですが少しメッキがとれて銀色が見えてきています。




4 金製バッジの話に戻りますが、どうして銀製とは別に金製バッジが存在するのかについては、調べた限りわかりませんでした。周りに金製バッジにした人もいないため、その理由を確認することもできません。
  先ほど述べたように、ずっと金色に光バッジをしているのは好ましくないと思っている弁護士もいるので、あえて金製バッジを選択する理由は何かあるのではないかと思います。
  弁護士バッジはひまわりの花をモチーフに作られており、このひまわりは正義と自由を意味するとされています。
黄金色に輝くひまわりのように、正義と自由のためにいつまでも活動したいという気持ちを忘れないために、金製バッジを付ける弁護士がいるかもしれません。
  ちなみに、せっかく金メッキがはがれて銀色になったバッジを紛失したことで再交付を受ける銀製バッジは、初めて弁護士登録したときと同じ金色をしています。
  バッジの紛失による再交付は珍しい話ではなく、黄金色に光る銀製バッジをしているからといって新人弁護士とは限らないのです。
  もしかしたら、話のネタにするために、バッジを紛失したことをきっかけに金製バッジにするという弁護士もいるかもしれません。

5 テレビのドラマなどで出てくる弁護士のバッジを見ると金色に輝いているものが多い印象です。やはり銀色よりも金色のほうが華やいで見えるためバッジの色を金色にしているのでしょうか。 
  銀製バッジの場合、徐々に金色から銀色に代わり、最後は黒くなってきます。銀は比較的変色しやすい金属といわれ、空気中の硫黄化合物と化学反応を起こして黒味がかかってくるのです。銀製バッジに金メッキが施されている理由の一つにこの変色を防止する意味もあります。
  黒味がかかり銀特有の深みや渋みが増してきた銀製バッジは、弁護士として経験を積み誠実に仕事を行ってきたことを示すシンボルです
  当初のように黄金色には輝いていないバッジは付けていますが、いぶし銀と呼ばれるような弁護士を目指したいものです。