弁護士 久保田 庸央
2021.07.20

コロナ禍の調停

 調停とは、一言で言えば、裁判所での話し合いです。
主に、離婚等の家族関係について話し合う家事調停と、貸金や隣の人との土地の争い等の一般の民事事件を取り扱う民事調停があります。

 話合いと言っても、当事者同士で直接言い合うということはしません。わざわざ裁判所に紛争が持ち込まれているのに、直接言い合いなんてさせたら、取っ組み合いのけんかとなってしまうかもしれません。調停委員という裁判所の職員に一方の当事者が話をし、話が終わったら他方当事者と交代して調停委員と話をするという流れで行われることになっており、間接的な話し合いということになります。

 また、話し合いと言うと手続自体が弱そうな印象を受ける方もいるかもしれません。確かに、話し合いなので、裁判所がシロクロはっきりつけて、強制的に結論を出すようなことはしません。しかし、話し合いが成立した場合には、そこで合意した内容は判決と同じ効果があり、合意に違反すれば、強制執行ができるなど、非常に強力な効果があります。

 この調停の進め方ですが、申立人は申立人控室というところに待機していて、自分が話す順番が来たら、調停委員が控えている調停室に呼ばれて、話をします。話が終わったら、申立人控室に帰っていきます。
 調停を申し立てられた相手は、「相手方」という立場になりますが、相手方控室に待機していて、同様に順番が来たら呼び出されて調停室に行って話をします。
 このようなことを何度か繰り返して、話し合いを進めて行き、話が整えば、調停成立となり、裁判所が合意した内容を調停調書というものにまとめてくれます。

 この流れが、現在のコロナ禍において少し変化しています。
 申立人は申立人控室ではなく、調停室に通されます。相手方も同様に相手方控室ではなく、申立人とは別の調停室に通されます。
 申立人と相手方は、それぞれ別々の調停室で待機しており、調停委員がそれぞれが控えている調停室に移動して話を聞いて、手続きを進めるという流れになっています。

 だからなんだと言われそうですが、当事者からすると大分違います。
 裁判所では同じ時間に何件も調停事件が入っており、上記の申立人控室には、「申立人」という立場の人が複数控えていて、順番が来たら、事件担当の調停委員が呼びに来るのです。相手方も同様です。

 調停事件に弁護士が就いている場合、相手が話を聞かれている時間などの空き時間に、次に呼ばれたときにどのような主張をするかや、相手が主張してきたことへの対応等の作戦会議をしています。控室には、他の事件当事者もいるため、気を付けないと他の人に内容を聞かれてしまいます。大声で打合せをしていて、内容が丸聞こえという弁護士も控室で見かけることはありますが、好ましいことではないので、通常は、固有名詞を出さないなど気を使いながら作戦会議をしています。

 それがコロナ禍の現在の運用では、調停室が割り当てられていますから、他の事件当事者はおらず、気兼ねなく作戦会議ができます。
特に、相手に弁護士が就いていない場合などは、相手が話を聞かれている時間が長いことが多いので(おそらく主張が整理されていないから)、他の当事者がいない調停室を控室として利用できるのは重宝します。

 控室に多数の人を集めないという感染対策なのですが、当事者にとっては、ありがたい運用ということになっています。
 コロナが終息しても、この運用は続けて欲しいとは思いますが、調停室を2倍確保しなければならないので、どうなっていくでしょうか。