弁護士 鍛冶 孝亮
2020.08.12

とある夏の遊歩道にて

1 長生きする夏の虫は何か、と聞かれたらどの虫を想像しますか。
  他の虫に比べて圧倒的に長生きの虫として思い浮かべるのはセミではないでしょうか。
  セミの生態は十分に調べられているわけではないのですが、セミの幼虫は数年から十数年土の中で生活するといわれています。
  夏の虫として代表的なカブトムシも幼虫自体は土の中で生活していますが、幼虫から成虫にかけての寿命は1年程度のため、セミのほうが何倍も長生きすることになります。
  セミは羽化して成虫になった後、1週間くらいしか生きられないという話を聞いたことがあるため、そんなにセミが長生きすることに驚いた方もいるかもしれません。
  実はこの1週間という点も最近の研究では否定され、数週間、長いものでは1か月近く生きているといわれています。
  羽化したら飛ぶことはできるものの、鳴いたり、交尾、産卵をするなど成虫として完全に成熟するまでは、羽化から1週間はかかるようです。
  成虫のセミは飼育が難しくすぐに死んでしまうことから1週間しか生きられないという話が出てきたともいわれています。

2 7月のある日、子どもと一緒に釧路市湿原展望台の遊歩道を散歩してきました。
  この日は天気も良く、釧路湿原も一望することはできました。
 



  遊歩道を空いているときに、木を登っているセミの幼虫を見かけました。
  この時期、森の中を歩いていると、セミの抜け殻を見かけることは珍しくありませんが、これから羽化する幼虫を見たのは生まれて初めでした。

 


  この幼虫が何年間土の中で生活をしていたのかわかりませんが、この日はこのセミにとって試練の一日になります。
  動きも鈍くまったくの無防備ですので、鳥やキツネ、蜂などの外敵に襲われたらひとたまりもありません。
  運よく外敵に襲われず羽化の準備に入っても、木から落ちしまったらもう羽化はできません。
  体が蛹からうまく抜け出せず羽が伸び切らなければ飛ぶことができず羽化は失敗に終わります。
  
3 「ひと夏の○○」という言葉があります。
  その夏が終わったら思い出として語られることが多いと思います。
人間の場合、その夏が終わっても翌年以降にまた夏がやってきますが、セミなどの夏の虫にしてみれば、成虫になった夏は最初で最後の季節となります。その夏の間に、成虫となり交尾をして子孫を残さなければならず、人に比べたら重みが違います。
実は、遊歩道で散歩する数週間前、浦幌森林公園で羽化に失敗し死んでいるセミを見かけました。
  数年間土の中で生活し、短い夏を生き抜くためにせっかく地上に出てきたのに、地上出てきて数時間後には、空を飛ぶこともなく死んでしまった姿を見ると悲しさを感じました。
  このセミを見ていたことで、釧路市湿原展望台の遊歩道で羽化直前のセミを見かけた際思わず足を止めてしまったのかもしれません。
  虫などの生き物の生態を知ることで命の大切さを学ぶということがあります。
  人間に比べて虫の生涯は非常に短いです。短い分、その生涯には生きていくことが無駄なく詰まっているのではないかと思います。
  できればセミの生態や今の瞬間がこのセミにとって一番重要なときであることを子どもにも説明し理解してもらいたかったのですが、もうすぐ三歳でまだわかる年齢ではありませんでした。
またこのような機会に遭遇するときまでこの日の思い出はしまっておきます。
遊歩道で見たセミの幼虫が無事に羽化をして短い夏を生き抜いていることを願っています。