弁護士 久保田 庸央
2020.07.22

これ証拠になりますか

「これ証拠になりますか?」
 と、法律相談の際によく聞かれます。

 例えば、相手の言い分を自分で書いたメモなどを持参して…。
 また、例えば、ラインのやり取りを写真に撮ったものを持参して…。

 結論から言えば、何でも証拠にはなります。
 相談者自身が、しゃべったことでも証拠にはなります。

 ただ、それで、証明できるかとなると話しは別です。

 では何が違うのかというと、証拠にすることができるかどうかというのは、証拠能力の話で、証拠能力については原則として制限はなく、何でも証拠になるということです。
他方で、証明できるかどうかというのは、証明力の話で、その証拠によって、どこまで事実等が証明できるかという問題だということです。

 例えば、AさんがXさんから殴られて怪我をしたので、損害賠償請求をしますという事件の場合に、コンビニの防犯カメラの映像に、殴っている様子がばっちり映っていた場合、殴ったという事実は、通常この映像のみで証明十分です。
このような証拠は証明力が高いと言えます。

 他方で、AさんがXさんから殴られましたという内容を自分で書いたメモを持参した場合…。
おそらく、このメモだけでAさんがXさんに殴られたことが証明されたと考える人はいないと思います。このようなものは、証拠にはなりますが、証明力は高くはありません。
ですが、これに、例えば、「今度、生意気言ったら、また同じ目に合わせてやるからな!」というようなラインがXさんからAさんに送られているとして、さらに、「殴打による打撲で全治2週間」という診断書でもあれば、AさんがXさんから殴られたと考えられるのではないでしょうか。
まぁ、「同じ目」というのが何かというのは、必ずしも明らかではないので、Xさんの反論や、その他の証拠次第では別の認定もあり得るでしょうが、的確な反論やその他の有効な証拠がなければ、証明されたと評価して差し支えないように思います。

 このように、何でも証拠にはなり得ますが、一つの証拠だけで一本取れるような証明力の高い証拠から、単独では決め手にならない証拠、場合によっては事実認定にはほとんど意味がないような証拠まで、様々なものがあり、証拠を総合的に評価して、事実認定をしていくことになります。

 で、最初に戻って、「これ証拠になりますか?」
 字面通りにとれば、証拠とすることができるかどうかという質問なので、証拠能力の問題として、「なります。」と回答することで、誤りはないと思われます。

 ただ、この質問をされる方は、証拠能力の問題と、証明力の問題の区別がついていることは通常考えられず、「これ証拠になりますか?」とは聞いてはいますが、質問の趣旨は、「この証拠で勝てますか?」とか、「この証拠で自分の主張は通りますか?」という、どちらかというと証明力に重きをおいたご質問と捉えるべきでしょう。

 ですので、ご質問に対しては、原則として何でも証拠になること、後は、証拠の評価として、相談者の期待するような事実認定がなされる見込みを説明することになります。

 ただ中には、相手に内緒で、相手との会話を録音したものを持参して、「これ証拠になりますか?」と質問される方もいます。
 相手に無断で勝手に録音したものですから、強めの言い方をすれば、盗聴とも言い得るわけで、このようなものを裁判所は証拠として取り扱ってくれるのかというご質問で、これは証拠能力の問題です。
 相手の承諾を得た上で録音をするのが筋で、そのような録音は褒められたものではありませんが、民事裁判では、この程度の不当性では、証拠能力が認められるのが一般です。
他人の家に忍び込んで、盗聴器を設置して得られた会話などは、さすがに民事裁判でも証拠能力は否定されると思いますが、きな臭い程度であれば、大抵の場合は証拠能力は認められるものと思われます。

 このように民事裁判では証拠することのできる範囲は基本的に制限しませんが、それでも、刑事事件の際に、捜査機関が国家権力を背景に証拠収集を行うのに比べれば、明らかに証拠の質も、量も劣っていると言わざるを得ず、その限られた証拠の中で、出来る限りの正確な事実認定がなされる努力がされているということになります。