弁護士 鍛冶 孝亮
2020.02.13

車間距離でわかる運転の上手い下手

1 車を運転していると、車間距離をあけずに運転している車をよく見ます。
  前方車にピタリと付くように走行し、前方車がスピードを落とす度に頻繁にブレーキをかけている車です。
  前方車が遅いのであおっているのかと思えば、追越し可能な場所でも追越しをすることなく、車間距離をあけずに真後ろを走り続けています。
  このような運転をしている車の後ろを走るときには、できるだけ車間距離をあけて走るようにしています。
  自分が運転している車の後ろにこのような車がいた場合には、できるだけ先に行かせるようにしています。
  北海道の道路を走っていると、野生動物(エゾシカ、キタキツネなど)が道路に急に出てくることが多く、急ブレーキを踏むことが少なくありません。
  後方車が車間距離をあけていないと、ブレーキ動作が遅れて自分の車に追突されるおそれがあります。
追突事故の場合、追突された側の過失は一般的に0%と言われていますが、事故に遭うと怪我をするだけなく、重たい後遺症が残る可能性もありますので、追突事故であっても絶対に事故には遭いたくありません。

2 そもそも道路交通法第26条では、「車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない」として、必要な車間距離を取らなければならない(車間距離保持義務)と定めています。
  この車間距離保持義務違反に反した場合には、5万円以下の罰金に処すと罰則(高速道路での違反は、「3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金」と一般道路よりも重たい)も定められています(道路交通法119条、120条)。
 前方の車両との車間距離を極端につめることで威圧する行為はあおり運転の一類型ですが、この車間距離保持義務違反にあたります。
警察庁の発表によれば、高速道路における車間距離保持義務違反の検挙件数は、平成29年6139件、平成30年1万1793件、令和元年1万3787件と増加傾向にあります。
増加の背景には、警察によるあおり運転の取締りの強化があります。
事故の発生が重大な結果に繋がる高速道路では、警察のヘリコプターが上空から車間距離不保持などの違反を確認しているようです。
よく利用する道東自動車道でも地上のパトカーと上空のヘリと連携し取り締まりを強化しているというニュースを見ました。
  高速道路で車間距離をあけないで走行する車は本当に恐ろしいので、どんどん取り締まってほしいと思います。

3 車間距離をあけないで運転することは、先ほど述べた法律違反であるだけでなく何の良いこともありません。
  十分な車間距離をあけていれば、前方車が急ブレーキを踏んでも追突を避けられます。前方の視野も広い状態で運転することもできます。
  また車間距離をあけていれば、前方車との距離の調整もフットブレーキではなくエンジンブレーキで対応することができますので燃費も良くなります。
不要なブレーキ動作もなくなり、渋滞の防止や緩和にも繋がるといわれています。
車間距離をあけない車を見るたびに、どうして十分な車間距離をとらないのかと疑問に思います。車間距離のことは、自動車学校で必ず習っているはずなのに、いざ運転をしてみると忘れてしまうのでしょうか。
  車間距離をあけると割り込まれるのが嫌だからあけないという話も聞いたことがあります。
  自分が走っている車線に車線変更をしたい車がいれば、車線変更をさせればいいだけなので、車間距離を詰めて車線変更をさせないという態度こそがお互い譲り合って運転するというマナーに反していると思います。
  また、自分が運転する車の真後ろに距離をあけずに運転されることも心理的な緊張があります。前方車の運転者からすれば、本人にその気がなくてもあおられていると感じます。

4 車間距離あけないのは、単に運転者の運転が下手だからなのではないかと思います。
  運転の上手い下手というのは、危険な状態が発生したときに、ハンドルやブレーキ操作で危険を回避できること力があるのではなく、常に危険を予測して、必要な動作を取ることができるのかどうかをいうと思います。
  車間距離の必要性は自動車の停止距離に関係します。
停止距離は、空走距離(運転者がブレーキをかけるべきと判断し実際にブレーキを踏みこみまでの間に車が進む距離)に制動距離(ブレーキをかけてから実際に停止するまでの間に車が進む距離)を加えたものになります。
  理論上は、自車が前車と同じ停止距離であれば、車間距離を詰めていても追突しないことになります。
  しかし、前車が、人や動物の飛び出しで急ブレーキを踏んだが間に合わず、人や動物に衝突して止まるということもあります。
道東の道路だと、エゾシカが突然車道に出てくることがあり、車道に出てきたエゾシカに衝突しその場で停車するということもあります。
今回のコラムでは詳しく書きませんが、路面状況(雨道、雪道)によって、停止距離は変化するため、その点を踏まえて車間距離をあけて運転しなければなりません(例えば雪道だといつも以上に車間距離をあける)。
  このように前車が急ブレーキを踏んだ際の制動距離と自車の制動距離とが必ずイコールにならないことを予測した上で、適切な距離をあけて運転する必要がありますので、車間距離を詰めていても前車にぶつからないと過信している人も運転が下手といえます。  

5 真冬の北海道では凍結して道路を走らねばならず、いつも以上に車間距離をとって運転しなければ、急ブレーキによるスリップをして追突事故を起こします。
  そして、春になるにしたがって溶けた雪で道路状況も悪くなります。
日中は溶けた雪が夜間に凍ってブラックアイスバーンの危険な状態になることも珍しくありません。
  車間距離をあけて運転するということは当たり前の話であり、多く人にとっては無関係かもしれません。
しかし、先ほど紹介したように車間距離保持義務違反の検挙件数は増えており、運転する側はあおっている認識はないにしても、適切な車間距離を保持せずに運転している人は多いと考えています。
実際に車で走ってみても、車間距離を詰めて走っている車をよく見ます。
普段は車間距離を取っている人でも、例えば急いでいる場合にはついつい車間距離を詰めてしまうこともあるかもしれません。
今回、自分自身の安全運転を心がけるためにも、車間距離をテーマとしたコラムを書きました。