弁護士 鍛冶 孝亮
2019.10.17

台風なので休みます

1 先週末に日本列島を襲った台風19号は、関東地方、東北地方を中心に大きな被害を与えました。
  9月上旬、千葉県に停電被害をもたらした台風15号が襲来したこともあり、事前に備蓄用として食料品や日用品を購入するなど準備をしていた人も多かったようですが、記録的な大雨による河川の氾濫の被害は、事前に対策をしておくことはできず、改めて自然災害の恐ろしさを感じました。
  インターネットで台風の情報を得ていたときに、目についたキーワードがあります。それは、台風と仕事についてのSNS上のつぶやきでした。
  台風19号が襲来した時期は、週末でかつ三連休ということもあり、仕事が休みだった人も多いと思いますが、サービス業を中心に週末に仕事をしないといけない人もいます。
  「台風がくるのに会社から出勤するように命じられている」という悲痛な叫びを多く見ました。
  では、そもそも台風がきたときに、仕事を休むことができるのでしょうか。

2 働くということは、雇用者と職員との間で、労働契約が結ばれていることが前提となります。
  職員は、雇用者の指示に従い、契約や就業規則で定められている勤務日で働く必要があり、仮に土曜日や日曜日が勤務日と指定されている場合には、台風がくる週末であっても働く必要があります。
  そうなると、台風がくるとしても週末に勤務先が営業をするのであれば、出勤しなければならず、台風を理由に休んだ場合、理由なく欠勤したとして後日始末書を書かされるなどの指導注意をされても受け入れなければならないとも思えます。
  しかし、今回のように気象庁が事前警戒を呼びかけている台風が襲来する場合、通勤時など職員の生命身体に危険を生じることが予想されますので、勤務を拒み休んでも、休むことに正当な理由があるため職員側に責任はなく、雇用主は休んだことについての責任を追及できないと考えられます。

3 もっとも、すべての台風で出勤を拒めるのかというと必ずしもそうではないと考えます。
  雨や風が強いものの公共交通機関は動いており、通勤に支障がない場合には、単に台風がくるということだけで、当然に仕事を休むことが正当化できないともいえます。
  台風を含めた自然災害の程度の参考となるのは気象庁の発表です。
  自然災害についての気象庁の警報を紹介すると、数十年に一度とされる「大雨」、「大雪」、「暴風」などにより最大級の警戒を呼びかける「特別警報」、重大な災害が発生するおそれのあるときに警戒を呼びかける「警報」、災害が発生するおそれのあるときに注意を呼びかける「注意報」があります。
  台風についても、風速の程度で「強い」、「非常に強い」、「猛烈な」、大きさにより「大型(大きい)」、「超大型(非常に大きい)」と区別されているようです。
  (参考HP)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/warning_kind.html
  台風19号の襲来にあたり、東北から東海にかけて、1都11県に大雨特別警報が発表されました。数十年に一度とされる大雨被害が事前に予測されており、気象庁は、命が助かる可能性が高い行動を取り、ふだんは災害が起きないと思われているような場所でも最大級の警戒するよう呼び掛けていました。
  このような台風が襲来するのであれば、台風を理由に休むことは正当化されるでしょう。
  一方で、強い風が吹き大雨が降っているものの一時的なものであり、公共交通機関も通常どおり動いており、気象庁からの特別な発表がなされていない場合に、台風がくることを理由に仕事を休むことは認められないと考えます。  
どのような場合に休むことができるのかを職員が判断することは困難ですし、人によって判断が違ってくることも考えられます。
そこで、この点については、むしろ雇用する側が、災害時の出勤についての適切なルールを作って運用していくべきと考えます。
  そもそも、職員が安全で健康に勤務できるために、雇用する側に課せされた義務があります。それは、労働契約法5条で明記されている「使用者は、労働契約に伴い、職員がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮」しなければならないという安全配慮義務です
  安全を配慮しなければならない範囲は、勤務中だけではなく通勤時も含まれます。
  雇用者は、通退勤時に職員の生命や身体に危険を及ぼす災害が発生した場合には、欠勤を命じて職員を勤務させないという配慮が必要になると考えられます。
  日本人は真面目な性格の人が多いので、休みたいと思っても、自分が休んだことで会社や出勤した同僚に迷惑をかけると思うと、休みたいと言えない人も多いはずです。
  このように安全配慮義務の観点からも、少しでも危険が生じると判断したのであれば、むしろ雇用者から積極的に欠勤を命じることが必要になってくると考えます。 
  なお、職種によっては、営業を停止することや職員全員を出勤させないということができないもの(医療や介護など)もあります。この場合、災害発生時に出勤せざるを得ない職員のために、特別な手当を支給することも考えられます。職員にしてみれば、災害時の出勤を雇用主が評価してくれていると感じ、たまたま休日で出勤しなくてよい同僚に対する不満も軽減することになるではないでしょうか。

4 ツイッタ―では「#台風だけど出社させた企業」というハッシュタグが作られ、台風19号の襲来時に出社させた企業名が挙げられたり、出社を命じた上司とのやり取りが紹介されるなどしています。
  勤務先内部のやり取りをSNS上で公開すること自体の問題はありますが、現在のネット社会では、職員に不合理な出勤指示を与えたことが拡散されると、ブラック企業という烙印をおされ、企業の信用が低下することもあります。
  地球温暖化の影響もあり、今回のような甚大な被害をもたらす台風被害が今後増えていくかもしれません。
  自然災害から会社だけではなく職員をどう守っていくのかという視点も忘れてはいけないと思います