弁護士 鍛冶 孝亮
2019.09.12

生きていたんだよな

1 車のラジオのとある音楽番組の中で、女性歌手のあいみょんの『生きていたんだよな』という曲が流れてきました。
  語り口調から曲が始まり、一体どんな曲なのかと耳を傾けていたところ、どうやらとある少女の自殺について歌った曲であることがわかりました。
  歌詞もインパクトがあり、一度聞くと忘れられません。
  気になって調べてみると、youtubeで公式配信されていましたので、その後何度も聴くことになりました。

https://youtu.be/EEMwA8KZAqg

  自殺をテーマにした曲ではありますが、自殺を肯定しているものではなく、自殺を図った少女へのレクイエムだと感じました。

2 8月下旬から9月上旬にかけて、中高生の自殺率が最も高くなる時期と報告されています。夏休みが終わって登校が始まるのがこの時期です。
  学校生活で辛い思いをしていた子どもが、夏休みに入り学校から離れ元気を取り戻したものの、夏休みが終わって辛い学校生活に戻ることに悲観し、自ら命を絶ってしまうという悲しい出来事が全国で起こっています。
2019年版の自殺対策白書によれば、2018年の自殺者数は9年連続の減少しており、そして人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺率は統計を取り始めた1978年以来もっとも低くなりました。
一方で20歳未満の自殺率は1978年以降最悪となっています。
  そして、15歳から34歳の若い世代の死因の第1位が自殺となっているのは、先進7か国では日本のみと報告されています。
  全体的な自殺率は減少しているにもかかわらず、若年者の自殺率は増加している現状から、国はSNSを活用した相談事業などを実施し、自殺防止に向けた取り組みをしています。
インターネットで「死にたい」など、自殺に関する単語を検索すると、検索結果の上位に、厚生労働省などの電話相談のホームページが出てくることも取り組みの一部でしょう。
新聞やテレビでも、夏休みの終わりが近づくにつれ、自殺防止の特集が組まれています。
過去には、鎌倉市の図書館のツイッターで、「学校が死ぬほどつらい子は図書館へいらっしゃい」とつぶやき、反響を呼んだことがあります。
このつぶやきには、不登校を助長しているとして非難もあったようですが、学校に行くことと命を天秤にかけると、学校を優先することは考えられませんので、むしろよくぞつぶやいてくれたと思います。

3 『生きていたんだよな』には以下の歌詞があります。
  「今ある命を精一杯生きなさい」なんて
  綺麗事だな
  精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ
  ※ 「生きていたんだよな」より引用

  命が大切であることは当然に理解しながらも、少女にとっては、自殺が苦しみから解放されるための唯一の希望だったことを切実に表現している歌詞に共感しました。
  
  そして、『生きていたんだよな』のサビは以下の歌詞になっています。
  
  生きて生きて生きて生きて生きて
  生きて生きて生きていたんだよな
  最後のサヨナラ他の誰でもなく
  自分に叫んだんだろう
  ※ 「生きていたんだよな」より引用

「いたんだよな」という過去形の前に、「生きて」という言葉を何度も繰り返していることで、一人の少女が生きていたことを肯定的に表現しています。
10代から絶大な人気を誇るあいみょんが歌っている曲ですので、多くの若い世代がこの曲を聴いているのではないかと思います。この曲を聞いたことで自殺の問題を考えるようになった人や自殺を思いとどまった人もいるかもしれません。
自殺を考えた人を、「生きていた」という過去形で語るのではなく、「生きていく」という将来へ繋げるために、自殺防止に向けた取組みを社会全体で実施していくことが必要だと思います。
歌手、タレント、女優、ミュージシャンなどが自殺防止を呼び掛ける読売新聞の特集があります。

https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/stop01/

著名人が自身のいじめ、不登校、自殺未遂などつらい体験を踏まえて、若者にメッセージを訴えています。
共通している想いは「生きてほしい」ということです。
自殺を考えた人がこのようなメッセージに触れることで思いとどまり自殺がなくなることを願っています。