弁護士 久保田 庸央
2019.07.18

過度な忖度

 今から10年以上も前の話ですが、妻と2人で札幌旅行に行った際に、1日だけゴルフをしたことがありました。
 後日、とある札幌の弁護士と何かの会合でお会いした際に、「〇〇カントリーにいなかったかい?」と声を掛けられました。丁度、そのゴルフ場に行っていたので、「はい。」と応えると、「女性と一緒にいたけど、奥さんじゃなかったら困ると思って、声を掛けなかった。」とのこと。
 かなり年上の弁護士の言葉でしたが、「んー。大人の世界は深いな。昔の大物政治家の不倫とかはそんな感じか。」と妙に感心してしまいました。

 その数か月後、とある保険代理店の方(男性)から、自分のお客さん(女性)が交通事故の被害にあったということで、損害賠償請求事件を紹介されました。
 法律相談には、その保険代理店の方も同席していました。法律相談を受け付ける事務所の相談票には、相談者の氏名のほかに、同席されている方の氏名を書く欄もあります。
 その同席されている方の氏名の欄に、私が認識している保険代理店の方の名前とは似ても似つかない名前が記載されていたのです。

 「!!??」
 「まさか、この人(保険の代理店)、偽名を使っているのか。」

 「まさか、偽名を使って愛人を作り、その愛人の事件をこちらに紹介しているのか。」

 「・・・」
 「とりあえず、ここは黙ってやり過ごすしかないか。」
 と、上記の札幌のゴルフの件もあるので、邪推を重ねた上で、大人の対応をすることに決めました。
 
 この対応は正解だったのか。
 この対応をしたことによって、何も問題は起きていないので、不正解ではありません。
 では、この対応をする必要があったのか。
 その謎は、すぐに解けました。
 その答えは、交通事故証明書にありました。
 交通事故時に同乗していた人の名前があり、同席している人の氏名欄と同じ名前でした。
 相談者は、偽名を使った保険代理店の愛人なんかではなく、単に、事故時の同乗者の名前を書いただけという落ちでした。

 何だかどうでもよい気持ちになったのと同時に、邪推に邪推を重ねたことを心の中で密かにお詫び申し上げました。