弁護士 荒井 剛
2018.12.28

自分が助からないと他人も助けられない。もっと平時から災害対策を

 今年の9月6日未明、北海道胆振東部地方において震度7の地震が発生し、その影響により北海道全域がブラックアウトになりました。胆振東部地震によって被災された方々に対し、あらためてお悔やみ申し上げます。

 北海道は、東北6県全部足しても足りないくらいの広さを持っておりますので北海道全域がブラックアウトするというのがいかに異常事態であったかがわかります。当然、ここ釧路地域もブラックアウトしました。その後、二日間かけ、徐々に電気は復旧しましたが、同じ釧路市内でも復旧の度合いが違っていました。当事務所は釧路市役所に近く、釧路市役所の復旧と同時に電気が復旧すると思いきや、結局、丸二日間、復旧しませんでした。電気が使えない不便さを改めて感じました。と同時に、もしブラックアウトしたのが厳冬期だったら、そして、もしブラックアウトの期間が1週間、1ヶ月続いていたらと思ったらゾッとしました。

 東日本大震災が発生した後も全国各地で台風被害が発生したことを契機にそれまでほとんどといっていいほど動きのなかった釧路弁護士会の災害対策委員会が少しずつ動き出しました。平成28年8月、台風10号により釧路管内の十勝地域が大雨災害の被害を受け、まさに当会の管内が被災地となった際には、災害対策委員会が中心となって緊急対策本部を立ち上げ、十勝管内の被災者向けの無料電話相談・出張相談を実施いたしました。被災地となったことで当弁護士会の会員の災害への意識も以前に比べ高くなってきてはいます。ただ、国の地震調査研究推進本部により作成されている全国地震動予測地図によれば、北海道道東沖での地震発生確率が高く、「千島海溝沿いの色丹島及び択捉島沖」及び「根室沖地震」、特に「根室沖地震」は、今後30年以内の発生確率が80%を上回ると予想されております。そのような地震が発生した際、はたして被災した人たちに対し、適切な支援をすることができるのかと考えた場合、まだまだ不十分と言わざるを得ません。昨年度、釧路弁護士会でもようやく災害対策マニュアルを作成するという動きになり、他の弁護士会のマニュアルを参考にして案を作成するところまで来ましたが、結局、完成することなく今回のブラックアウトを迎えてしまいました。マニュアルが完成されていればいいという話ではないですが、マニュアルも作成できていないという意味で、やはり災害対策としてはまだまだ十分とはいえません。

 これまで災害対策をテーマに当弁護士会の会員向け研修も行ってきました。ただ、この研修は災害時に問題となる法制度の知識を習得するということを主眼に置いていました。台風被害か地震被害かによっても問題となる法制度が異なったりもしますし、被災者が十分な法制度の情報を持ち合わせていない中で弁護士が被災者に対しこれらの法制度情報を提供することは極めて有益ですので、われわれ弁護士側が普段から災害時の法制度について研修を受けておくことは重要であることは間違いありません。しかし、そもそも論として、自分が助からないと、となりの人を助けることができません。弁護士として被災者を支援したいと思っても自分が助からなければ支援すらできません。したがって、被災者支援をするためには災害時の研修もさることながら、まずは何より平時の災害対策に力を注ぐべきではないかと考えるに至りました。

 そこで、胆振東部地震によるブラックアウトを受け、まずは平時からの災害対策の意識をさらに高めてもらう必要があると思い、「平時における災害対策」をテーマにした研修を行いました。講師として、長年、日弁連の災害復興支援委員を務め、災害対策に精通されている徳島県弁護士会所属の堀井秀知先生をお呼びしました。堀井先生は、学生時代に阪神大震災を経験したこともあり、長年にわたり災害対策、災害支援活動に取り組まれ、自ら「防災士」の資格も取得されております。堀井先生の災害対策にかける情熱とその情報量に圧倒されましたが、私を含め、研修に参加した多くの会員は大きな刺激を受けたものと思います。徳島弁護士会の会員数は90名程度で、釧路弁護士会とそれほど変わりがありません。徳島弁護士会では、毎年1回、大規模災害が発生したと仮定し、会員らから会員らの安否確認情報を収集するという訓練を行っております。これまでは事前告知して行ってきましたが今年は抜き打ちでの訓練が行われたそうです。徳島では安否確認のためファックスを使用しておりますが、奈良弁護士会では、ファックスが停電で使用できないということを想定し、グーグルのサービスを利用して安否確認をする訓練を実施したそうです。非常に興味深いです。当会でも来年以降、このような安否確認の訓練から始めていければと思っております。

 さらに平時の災害対策の一つとして重要だと思うのは、日頃から「災害」を意識した自治体との連携だと考えています。災害が発生した直後は自治体もその対応に追われます。災害支援のための法制度情報を迅速かつ的確に多くの被災者に伝えることは重要な被災者支援です。自治体としても各種の対応に忙殺されているときですので、その場合に弁護士が避難所等に赴き、被災者らに対し、適切な情報提供を行い、被災者からの法律相談に乗ることのできる場が確保されていれば、その分だけ早い被災者支援につながると思います。そのためにもやはり自治体との連携協力が必要だと思っており、来年度以降のテーマであると考えております。徳島ではすでにいくつかの自治体と災害時における相談業務の支援に関する協定書を締結したと聞いております。これまで自治体側には災害時において弁護士会と連携するという発想はあまりなかったかもしれませんが、実はつい最近の12月17日、日弁連が全国市町村会との間で「災害時における連携協力に関する協定」(災害協定)を締結しました。これをきっかけに今後、各地の弁護士会と自治体とが災害時の連携協力をするケースが増えていくと考えられます。(https://www.bengo4.com/other/n_8996/ 参照)。

 まずはできることからやる。一歩ずつでも進んでいきたいと思っております。