弁護士 小田 康夫
2018.07.05

セクハラ研修を行いました。

 先日、荒井弁護士と一緒に、ある企業で、講師として、「セクハラ研修」を行いました。

 研修の中で、「これはセクハラですか?」と、以下のような質問を出しました。
先に言うと、答えは全部、○です。

① 食事に付き合わない女性職員に対しては、仕事中無視している。
② 同じ課の男性職員と街でお茶を飲んだだけなのに、性的な噂を流された。
③ 宴会では、部長の隣は女性職員が座ると決まっている。
④ 疲れ気味の女性職員には、親切に肩をもんであげる。
⑤ 課長は女性職員だけを集めて定期的に飲み会をしている。
⑥ 男性職員同士で定期的に女性職員のランク付けをしている。
⑦ 秘書業務には女性職員を配置するようにしている。
⑧ セレモニーでの花束贈呈は、女性職員が適任だ。
⑨ 男性職員だけを集めて、業務研修をした。
⑩ 男性の上司から、「男のくせにもっとしっかりしろ」と叱責された。

 ポイントは、「相手の意に反する性的な言動」全てがセクハラだということ。
「性的な言動」というのは、
○性的な事実を尋ねること
○性的な内容の情報(噂)を意図的に流布すること
○性的冗談・からかい
○個人的な性的体験談を話すこと
さらにエスカレートして、こんなものもあります。
○性的な関係を強要すること
○必要なく身体に触ること
○わいせつな図画(ヌードポスター等)を配布、掲示すること
○強制わいせつ行為、
○強姦
 なお、当然ですが、セクハラには、男性から女性に対するものだけでなく、女性から男性に対するものおよび同性に対して行われるものも含まれます。

①~⑩は簡単でした。では、続けて、以下の質問はどうでしょう。

⑪企業は、セクハラ防止対策として、何をしておくべきでしょうか?
⑫社内でセクハラ被害が発生しました。管理職としては、何をすればよいでしょうか?
⑬セクハラ被害の有無がわからない。どうしたらよいでしょうか?
⑭加害者をどう処分したらよいでしょうか?
⑮再発防止策はどうしたらよいでしょう?

「セクハラとは何か」というのはよく話題になります。ただ、「セクハラ被害対策」、つまり、「セクハラに関し、企業としては、いつ、何をしなければならないか?」ということは、案外、あまり知られていません。

 事業主は、セクハラに関して10の措置を講ずることが義務づけられています(男女雇用機会均等法11条1項2項参照)。
例えば、こんな措置が必要です。
☑相談窓口をあらかじめ定めること
☑職場でセクハラ被害があった場合は、事実関係を確認すること
☑事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならないこと
☑事実確認ができた場合には、速やかに被害者に適切な対応すること

 大事なことなので、繰り返しますが、相談窓口を措置することは「事業主」に課せられた「義務」です。ですから、
×「セクハラ対策なんて大企業だけ。うちの会社には関係ない」
×「セクハラ相談窓口はない」
×「セクハラ対応なんて面倒。どうせ大きな問題にはならない」
なんて言い分は通用しません。

 確かに、「うちの会社には相談なんてないから研修なんて必要ないよ」という企業はあるかもしれません。
しかし、裁判例を見てみると、管理職のセクハラ被害への認識が甘く、セクハラの被害者をないがしろにしたために(逆に、加害者を優遇するかのような措置を取ったために)、企業に対し、多額の賠償責任を認めた事例があります。とりわけ、近年は、社会的にもセクハラが話題になることが多く、企業の姿勢が強く問われています。私の経験でも、労働審判事件において、企業責任が厳しく追及され、損害賠償請求として600万円の賠償責任を企業に認めさせたケースがありました。
 先ほどの事業主に課せられた10の措置にも、「職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。」が規定されています。セクハラ研修をすることは、いまや企業のコンプライアンスのうちでも重点事項です。セクハラ被害者を生まないためにも、企業責任を回避し、適切な対応するためにも、セクハラ対策が十分か、今一度、考え、対策を講じる必要があります。