弁護士 小田 康夫
2018.02.15

「ベンゴシ」は何をしているのかわからない問題。

異業種交流会に参加すると、

「専門分野はなんですか」

という質問を受けることがよくあります。

 私は、「専門分野」と問われると、正直、回答に窮します。
「最近は事業承継に興味を持っています」などと答えて、お茶を濁します。



 ところで、私が受ける相談にはこんなものがあります。
「車をぶつけられた」
「交通事故の慰謝料の提案があったが、納得できない」
「保険会社の対応が悪い」
「売掛金を回収したい」
「営業秘密が持ち出されてしまった」
「債務が多く、どのように経営を立て直すべきか、悩んでいる」
「会社をたたみたい」
「事業承継を検討している」
「遺言書をどう書けばいいかわからない」
「従業員が逮捕された」
「残業代を請求したい」
「不当に解雇された」
「解雇したい」
「家賃が回収できない」
「家賃が払えない」
「立ち退きを求めたい/求められた」
「カードを勝手に使われてしまった(消費者被害全般)」
「殴って逮捕された」
「被害届を出したい」
「被害者として、刑事事件に参加したい」
「離婚したい/したくない」
「慰謝料を請求したい/された」
「相続の話がまとまらない」
「営業上の損害を賠償してもらいたい」
「訴訟を提起された」
「嫌がらせを受けている」
「騒音を止めたい」
「契約書を作りたい」
など(一例です)。
 そのほか、「交通事故の講演をお願いしたい」「顧問契約を結びたい」というようなものもあります。


 当然、これらの相談にすべて対応します。
 このような多様な相談に対応するため、日々研鑚を積みます。
場合によっては、相談だけでは終わらず、依頼を受けて、裁判の内外で、依頼者と一緒に戦ったりすることもあります。

 また、私を含め弁護士の多くは「会務(カイム)活動」をしています。
これはいわばボランティア活動です。
「平等な社会を実現するために法制度を整えよう」
「差別をなくすための仕組みを作ろう」
「少数者が不当な扱いを受けないよう、提言を行おう」
「人口過疎地域に弁護士事務所を開設しよう」
「周辺市町村に弁護士を派遣しよう」
「冤罪事件を支援しよう」
「犯罪被害者を支援しよう」
「定期的に市民を巻き込んでシンポジウムを行おう」
「裁判官や検察官、弁護士などの司法を支える人材を育てるために、研修生を受け入れて、育てよう」
など(ほんの一例です)。

 そして、日常的な相談業務とは異なりますが、裁判所等から依頼を受けるものとして、
「刑事の被疑者・被告人に付ける必要がある、国選弁護人」
「市民後見人では対応が困難な案件では弁護士が就任する、成年後見人」
「破産事件で、主に債務者の財産をお金に換える業務を行う、破産管財人」
などもあります。

 なお、いわば弁護士の「ボランティア」活動であるはずの会務活動ですが、逆に、この活動に必要な資金は、全国の弁護士が、一人あたり、「数万円」(多いところでは、約10万円)を、(「毎年」ではなく)「毎月」、支払うことで賄っています。地域によっては、年間、弁護士一人が、約120万円を負担しています。
こんなことを説明すると、異業種の方は、非常に驚かれます。

 同じ法律に係る分野を扱う司法書士や行政書士と比べて異常に高額であることはあまり知られていないようです。少数者の権利が不当に侵害されないよう、また、国家機関が誤った方向に行かないよう、弁護士が「ボランティア」・「手弁当」で、組織を運営するための費用を賄っているのです。

 さて、話を戻すと、おそらく釧路の弁護士であれば、会務も複数担当しているのが通常であり、「○○専門」ということはありません。
 日常的な相談業務の他にも会務活動なども多方面で仕事をしています。
「専門分野は?」
と質問を受けても、多くの活動をしている弁護士であればあるほど、答えに窮します。
私がお茶を濁すのも、相談だけでも日々の業務は一言では言い尽くせず、また、会務などの活動も含めると、業務内容は多方面に及んでいるからです。

 なお、異業種の方が本当に知りたいのは、初対面の弁護士の「専門分野」ではなく、むしろ、その人が、「ちゃんとした仕事をしているのか?」かもしれません。

 それを知りたければ、弁護士の「話がわかりやすいか」をよーく観察してみてください。
とりわけ、法律の専門的な話は少しややこしいので、わかりやすい言葉を使っている人はそれだけきちんとした知識を有した人です。もっというと、つっこんだ質問をして、同じ回答を別の視点から説明をしてもらえるか。
 法律の仕組みを正しく理解しているときは、説明を難しくすることも、逆に、わかりやすくすることもできます。抽象的ですが、いわゆる「専門家」の仕事は「難しいことをわかりやすく説明すること」に尽きます。弁護士も紛争解決の専門家を自負していますから、その説明はわかりやすく理路整然としています。裁判員裁判も始まりました。市民に対し、弁護士の説明がどれだけわかりやすいかが問われる時代にもなってきました。

 質の高い仕事をしているかは、説明の分かりやすさで決まる。

 こう書いてみると、自分の身が引きしまります。
 分かりやすく説明する。
 丁寧に、かつ、多面的な角度から話をする。
 将来の発生しうる利益とリスクを期待値も絡めて説明する。

 そんなことを考えていると、異業種交流会のような場こそ、裁判官・検察官及び弁護士が、難しい法律の専門用語(テクニカルターム)を使わずに、自らの説明の仕方を考え直す場、より分かりやすい説明技術をみがく場、そして、専門職としての仕事全般の研鑚を積む場である、と思えてきます。