弁護士 荒井 剛
2017.09.27

~LAWASIA 東京大会2017~に参加して

9月18日から9月21日まで東京のホテルニューオオタニで開催されたLAWASIA(東京大会2017年 ~法の支配による大いなる飛躍~ローエイシアの軌跡とこれからの役割~)に参加して参りました。
 
 そもそもLAWASIAとは何かということですが、アジア・太平洋地域の弁護士、裁判官、検事、法学者等の法律専門家で構成されている団体であり、アジア・太平洋地域における法の支配や司法の独立、人権保障に関わる法制度自体の問題だけにとどまらず、国際社会でのビジネス法の現状と課題を取り上げ、弁護士間の交流・議論を通じ、よりよき法の世界を実現しようとすることを目指している団体です。
 約30の国・地域の弁護士会が団体会員となっているほか、約50の国・地域からの個人会員が参加し、現在、会員数は100万人を超えているようです。日本開催は2003年の東京大会以来14年ぶり、しかも30回大会という区切りの大会であったため春先から日弁連がものすごい広報をしておりました。その広報のおかげか、30か国以上から合計1000人の法曹が東京に集結していました。

 ここ釧路で弁護士をしていると日常業務の中で英語はもちろんですが外国語に触れる機会があまりありません。したがって、英語等の外国語を使うという機会自体、それほどありません。大会の公用語は英語であるため公式行事ではすべて英語が使用されていたため、それだけでも非常に刺激を受けました。ちなみにわが釧路弁護士会からは私を含め合計3名の弁護士が参加しました。

 はじめての参加で何をどのようにすればいいのか全くわからなかったのですが18日の夜に「ウエルカムレセプション」という名のパーティが用意されていたのでこれに参加してみました。会場前で琴の演奏が行われ、会場内の正面ステージでは5人位の女性グループが声を掛け合いながら太鼓を叩いていました。あっという間に会場内は参加者で埋め尽くされ、あたりを見回すと半数以上が外国からの参加者でした。インド、スリランカ、シンガポール、台湾、中国、韓国、バングラデシュ、マレーシア、ロシア等本当に多様です。わざわざ来日して参加するくらいですから彼らのモチベーションは高く、積極的に声を掛けていき、ネームカード(名刺)を交換し、ネットワークづくりに励んでおりました。
 私も10分程度の間に、次々と外国人の参加者から声をかけられ、名刺入れがあっという間に膨れ上がりました。最初に声をかけてくれたのは東京にも支社がある中国の法律事務所の弁護士さんでした。「国際仲裁が専門だけど君は?」といきなり聞かれ、そもそも国際仲裁を利用したことすらない私としては地方では特定の専門分野に絞って弁護士業をやっていくのは難しく、結局、ほとんどの分野をカバーしていると答えると、若干、怪訝な顔をされてしまいました。それでも気を取り直し、マレーシアから来たという弁護士やサハリンから来たというロシアの弁護士と知り合いになることができました。
 特に釧路地域は北方領土に隣接しているためロシアとの関わりが多くなる可能性がありますのでロシアとのパイプを持っておくことは重要ではないかと思います。ロシア人はあまり笑わないという印象を持っていたところ会場で知り合ったサハリンの弁護士さんは屈託のない笑顔で握手してきてくました。ただ、体格や顔は「最強の格闘家」と呼ばれたヒョードルそっくりでした。K1やPrideといった格闘技をよく観ていた私はこれだけで満足してしまいそうになりました。

 さて、翌日、いよいよ開会式です。さすが国際大会です。最高裁長官、法務大臣、検事総長から挨拶があったほか、皇太子が英語でスピーチをされていました。アジア諸国の目覚ましい発展に触れ、大会参加者が相互理解と友好を一層深め、明るい展望をひらく法の支配の確立の更なる一歩になることを期待するという内容でした。短すぎず、長すぎず、それでいて参加者すべてに配慮されたスピーチで、素直に素晴らしい内容だと思いました。

 開会式が終わるといよいよセッションが始まります。三日間で30を超える公式セッションが用意されていました。その中で私が参加したのは「高齢社会と法的対応」「法律実務の国際化と若手弁護士の活動領域」「アジアにおける国際商事仲裁の最新論点」「移民をめぐる諸問題」というセッションでした。国際ビジネス(金融、投資、租税)から国際家事問題(養育費の回収)、難民問題、民事執行、そして、刑事司法取引問題等の刑事問題まで幅広いテーマが用意されていました。それ以外にも交流を目的とするサイドセッションやランチを取りながらのセッション(ランチセッション)もいくつか用意されていました。
 私は、「人権派弁護士の交流会」というサイドセッションに参加してみました。インドやバングラデシュの最高裁判事と交流することができました。セッション後は、日本料理屋で懇親会が行われたのですが、大豆本来のやさしい味が詰まった寄せ豆腐にありったけの唐辛子をかけ、醤油をジャバジャバかける様子を見て、食文化の違いを目の当たりにしました(笑)。
 また、二日目の昼には「アジア太平洋地域におけるLGBTの権利」というランチセッションにも参加しました。ここではゲイであるオーストラリアの最高裁判事やレズビアンの台湾弁護士、また、外資系企業で働くインハウスローヤーで最近ゲイであることをカミングアウトした日本人弁護士の方がパネリストとして上がり、自分たちの体験談を話してくれていました。台湾では同姓婚禁止は違憲であるという判断がなされ、また、インドでも最高裁が「性的指向の表明は保護される」と判断するなどアジア諸国内でもLGBTの権利に対する理解が広がっていることがわかりました。

 ところでほぼすべてのセッションでは、いわゆるコーディネーター(英語ではモデレーターと呼んでいました)が1人、そして、パネリストが数名、横一列に並んで座った状態で、パネリストらがまず各国の現状と課題を報告し、モデレーターが類似点、相違点、課題点等を拾い出した後、会場からの質疑に応えるという流れで進行します。どのセッションも英語・日本語の同時通訳がついています。コーディネーターは大体日本人でしたがコーディネーターもすべて英語を使ってセッションを進めていました。パネリストの中に日本人が含まれていることもありましたがパネリストも当然英語で回答していました。外国のパネリストも当然英語です。われわれ日本人もそうですがパネリストの方も英語が母国語なわけではありません。明らかに発音が悪いというレベルであってもきちんと英語を使って自分の伝えたいことを伝えられている(少なくともそう見える)姿に非常に感銘を受けました。
 よく言われるのですが日本人は必要十分なほど英語教育を受けているため、英語の読み書きはある程度できるが、会話となるとまったくダメになるという人が多いかと思います。発音が変だったり、文法を間違えたりすることで笑われるのではないかという意識がどうしてもあるのだと思います。恥ずかしいという気持ちを少しでもなくせば一気に英語が使えるようになるのではないかと思います。

 私自身、高校時代、父の転勤で米国に数年間生活していたこともあり簡単な日常会話程度であれば英語を使うことができます。それでも自分の言いたいことを言おうとするレベルには全然達していません。使っていないから忘れるということもありますが、それよりも自分自身、やはり恥ずかしいという思いをどうしても払拭できていないのではないかと思います。今回、英語を母国語としない人たちが英語を使って会話し、議論しているのを目の当たりにし、もっともっと自分自身、恥ずかしさを取っ払う必要があると痛感しました。

 セッションの中身自体がすぐに釧路地域での弁護士活動に直接役立ったとは思えませんが、ここ道東にも多くの外国人観光客が来ています。今後も外国人観光客が来ることでしょう。また、最近では道東の中小企業がマレーシア・ベトナム等のアジア諸国に進出しようとしています。さらにはここ釧路地域ではさきほども触れたように今後ますますロシアとの関わりが強まっていくことは間違いないと思っております。最終的にはロシア語や中国語、韓国語の勉強も必要かもしれませんが、まずは発音や文法を気にせずにある程度自分の言いたいことを英語で表現するような力を身につける必要があると思っております。それができれば他の言語についても活かせると思います。
 まずは、今後、釧路弁護士会内において有志の弁護士を募って語学力(英語でのコミュニケーション力)を鍛える研修を実施したいと考えております。