弁護士 小田 康夫
2017.08.09

子どもシェルター「レラピリカ」

 「家に居場所がない。」「今日のご飯が食べられない。」そんな思いを抱えた子ども達を一時的に保護するための施設を子どもシェルターといいます。
 「レラピリカ」は、平成25年12月に札幌の弁護士が中心となって設立したNPO法人です。その立ち上げに関わった札幌の弁護士や児童養護施設を退所した子ども達への支援をしている方の話を、先日、函館行われたシンポジウムで聴いてきました。

 以前もコラムにて紹介しましたが、法制度としては、18歳未満の子ども(児童)に関わる全般的な法律として、児童福祉法があります。また、子どもに対する虐待が社会問題化する中で、平成12年、児童虐待防止法が施行されました。民法でも、虐待親の親権喪失や親権の停止の規定も存在します。
 例えば、親が子どもに虐待を加えたケースでは、通報により、児童相談所が強制的な立ち入りを行い、子どもを一時保護し、その後、虐待親の親権を喪失させることも法制度上、可能となっています。日本では、そのように保護された子どもは、(里親の下ではなく)児童養護施設で生活することが多いです。
 ただ、18歳となった時、そのような子は、「児童」ではなくなるため、原則として児童養護施設を出る必要があります。なお、児童福祉法は、平成28年に改正もあり、18歳、19歳を直ちに保護しないという建前にはなっていませんが、それでも年齢による線引きを維持しています。

 児童養護施設を退所した子は、途方にくれてしまうケースが多いとのことです。
その子にとって、自分を応援してくれる親はいません。
学費を出してくれるような人もいない。
退所後、働く場所を失い、ホームレスになったり、万引きなどの非行に走ったりした例もあると聞きます。
本人に自立の体制が整っていない段階に「自立」を強制されてしまう。
そのような「自立」を余儀なくされた子どもに対し、大人たちが何をできるか。

 国に対して予算措置を要求することなどもありますが、アイディアの一つは、札幌の弁護士が行ったように、民間で寄付を集めるなどしてNPO法人を作ること。ただ、年間1500万円を超える経費をどのように集めるか、毎年、頭を悩ませているとのことです。

 函館でのシンポジウムでは、児童養護施設等を退所した後のアフターケア支援を続ける団体「ゆずりは」所長である高橋亜美氏が、こんな趣旨の話をしていました。
 「児童養護施設退所後の18歳や19歳の子どもに対する支援を呼びかける活動をしていると、周りからは、『18歳でも19歳でも社会で立派に自立して、活躍している人はいっぱいいる』との批判を受ける。しかし、そのような人には多かれ少なかれ家族がいる。経済的な支援を受けずとも、悩んだときや困ったときに家族に相談できたり、帰る場所があるという安心感がある。そのようなものがない施設の子ども達とは違う」
「18歳、19歳で家を借りようと思っても、保証人が必要で、満足に賃貸借契約すら結べない。社会のルールそのものが、親の存在を前提とするシステムになっており、親がいない者を排除するものとなっている」。
確かに、児童養護施設出身の人でも社会で活躍している人はたくさんいます。
 しかし、社会のシステムそのものが、親がいる人に有利で、それ以外の人が活躍するには圧倒的に不利な現状があります。
 
 児童養護施設で暮らす子どもたちは4万人を超えるそうです。当然、児童養護施設や里親の役割は重要ですが、まだまだ支援が不足しているのが現状です。また、児童虐待の件数は、調査当初からどんどん高くなり、平成27年には10万件を超えました。当然、虐待に対応する児童相談所の役割や家庭裁判所、それに関与する弁護士の役割も重要となっていきますが、マンパワーの不足もあり、十分な対応が取れるのか、疑問に思うところもあります。民間で運営するにも補助金をどのように獲得するかが一つの課題だと聞きます。上記の保証人の話もありますから、社会のシステムも、家庭環境の異なる個人が尊重されるように整備する活動を行うことも必要でしょう。このように課題が山積しているところですが、私も微力ながら活動に関わっていきたいと考えています。

 レラピリカとは、アイヌ語で「美しい風」という意味だそうです。
 翼を休めた子供たちが、安心して社会に飛び立てる場所を作り、その手助けとなる新風を吹かす。
 安心して子ども達が生きていく施設や制度、さらに一時的にでも避難できる居場所を、国や社会が用意する。このようなことは、少子高齢化が進む日本社会が持続可能な発展をしていくために必要不可欠な投資であると思います。

 ただ、現状、どうもその「風」はよわよわしく、頼りないように思えます。