弁護士 荒井 剛
2017.07.26

~中小企業の海外事業展開支援~

 先日、札幌で開催された弁護士による弁護士向けの「中小企業の海外事業展開支援に関する研修」に参加して参りました。参加した弁護士の多くは札幌弁護士会に所属する人が多かったですが道内からも旭川、函館、そして、当会(釧路弁護士会)からは私を含め2名、参加しておりました。

 実は、現在、日本弁護士連合会では、日本全国の中小企業が地元の弁護士から海外展開業務への法的支援を受けられるようにすることを目指しております。具体的な制度として、2012年5月から「中小企業海外展開支援弁護士紹介制度」(パンフ参照)をスタートさせています。たとえば、ひょんなことで海外企業と取引をすることになったもののどのような契約書を作ればいいのかわからない、海外企業から契約書案を提示されたもののその内容でいいのかどうかわからない、海外展開に伴う現地での法的トラブル、予防法を知りたい、あるいはすでに海外の企業と取引をしたがトラブルになってしまった等といった問題について、国際的な企業法務・取引法務の経験が3年以上あり、基礎的な国際業務に対応しうるレベルの外国語力のある弁護士を紹介するというものです。
 この場合、初回相談料30分が無料となっております。それ以降は、タイムチャージ制となっており、10時間までは、相談・調査・執務について30分毎に1万円ということになっております。東京の大手法律事務所に最初から依頼するとそれなりの金額になりますので海外が絡む法律関係業務であることを考えればかなり廉価な設定になっていると思います。
 
 ただ、ここで若干問題があります。この紹介制度、紹介する弁護士の地域が限定されているという点です。日弁連のパンフレットによれば、北海道内では「札幌地域」と限定されております。しかし、北海道は、「札幌地域」だけで成り立っているわけではありませんし、札幌地域以外でも昨今はシンガポール・タイ・ベトナム・マレーシア等の東南アジアに積極的に進出していこうとする中小企業は多く存在しております。
 したがって、「札幌地域」以外の地域、特にここ道東地域においても海外事業展開を検討している中小企業はそれなりに存在していると思います。そのような中小企業の海外事業展開に関し、中小企業が上記紹介制度を利用して弁護士から法的アドバイスを受けたいというときに地元の弁護士の紹介を受けられないというのは残念な話です。ちなみにそもそも釧路弁護士会が、日弁連から、紹介できる弁護士がいるかという問い合わせを受けていたかどうかはわかりません。しかし、少なくとも私はこのような相談があったら前向きに、かつ、一緒に検討していきたいと考えております。だからこそ冒頭の札幌での研修を受けたわけです。

 弁護士法72条によれば、弁護士以外の者が「法律事務」を取り扱ってはいけないと規定されています。逆にいえば、「法律事務」は、弁護士しか取り扱えないということになります。そして、ここでいう「法律事務」の中には、外国が絡む法律問題も当然含まれることになります。
 もちろん、外国が絡む法律問題といってもその外国の弁護士資格があるわけではないので日本の弁護士資格のまま、外国においてその外国の「弁護士」として仕事をすることはできませんが、日本国内において外国が絡む法律問題は純粋な「法律事務」に含まれます。そうすると、私たち弁護士が、外国が絡む法律問題なので相談はお受けできません、あるいは事件として受任できませんと安易に断ってはいけないのではないかと感じております。
 もちろん、国内案件に比べ、ハードルが多少高いとは思いますが、私としては、そのようなアドバイスが欲しいという地元の中小企業からの要望があれば、是非、一緒になって取り組み、そして、ともに成長していきたいと考えているところです。