弁護士 鍛冶 孝亮
2017.07.12

カードローンの利用は自分との戦い

1.シェイクスピアの言葉に、「金を貸せば、貸した金と友人とを同時に失う」(『ハムレット』より)というものがあります。
  お金を貸す場合には、返してもらえないというリスクがありますが、貸した相手が友人であれば、返してもらえないことや返済してもらうまでの過程で問題があったとき(返済が遅れた、催促してやっと返済してくれたなど)には信頼関係が崩れ友情も壊れてしまいます。
シェイクスピアのこの言葉は、友人同士でお金を貸し借りすることの危険性を指摘している名言だと考えます。
  そのこともあって、友人にお金を貸すときには、返ってこないものと思って渡すべきとも言われているようです。
2.もっとも今の世の中では、様々なことにお金がかかるわけですから、ときには手持ちのお金が不足し、どこかからお金を借りて用意しなければならない状況もあります。
  家族や友人以外からお金を借りる場合に、多くの人が利用しているのが金融機関や消費者金融のカードローンではないかと思います。
  カードローンとは、借入極度額を定めて、その極度額の範囲内で、いつでも借り入れをすることができる無担保の金融商品です。
  例えば、極度額が50万円であれば、借入残高が0円の場合、50万円まで借りることができ、借入残高が30万円の場合には20万円までしか借りることができません。
  自動車ローンや教育ローンとは異なり、使用目的は限定されていないことが一般的です(その分、自動車ローンなどに比べて利息は高くなっています)。
  銀行や消費者金融のカードローンについては、テレビのCMでもよく見ますし駅などにはポスターが貼っています。
  このようなこともあり、気軽にカードローンを利用する人も増加しているのかもしれません。  
3.先日、金融庁の調査で、銀行のカードローン利用者のうち、3年以内に貸金業者(消費者金融)からもお金を借りた経験のある人の割合が63.7%に上ることが判明したというニュースを見ました。
カードローンなどの返済のために、他の業者からも借入をし、新たな借入の返済のために、また違う借入を行うなどして、債務が雪だるま式に膨らみ、返済不能な状況にあることを多重債務状態といいます。
金融庁のニュースを見る限り、銀行のカードローン利用者の一部は、その銀行のカードローンにとどまらず、他の貸金業者からも借入をしているようなので、銀行のカードローンは、多重債務の温床になっているようにも感じます。
4.多重債務者の増加抑制のため、貸金業法が改正され平成22年より、貸金業者に借主の返済能力を調査する義務が課され、借主の年収の3分の1を超える貸付ができないようになりました(いわゆる総量規制)。
  もっとも、対象となるのは貸金業者であり、銀行は対象外となっています。したがって、銀行のカードローンの場合には、借主の返済能力を超えた過剰融資になる危険性もあります。
  私が弁護士になった7年前に比べて、債務整理の事件を受任する機会は大きく減少しています。
  その理由は、過払金返還請求事件がほぼなくなってきたことと、前述した貸金業法の改正で昔に比べてお金が借りにくくなってきたからなのではないかと思っています。
  しかし、最近では金融機関(カードローンによる借入)が債権者となる債務整理事件が増えている気がします。中には、多数の異なる金融機関のカードローンを利用している人もおり、収入を考えるとどうしてこんなに借りられたのかと疑問に思うこともあります。
  先日、ゆうちょ銀行も無担保融資(口座貸越による貸付業務)を手がけるというニュースを見ました。カードローンとほぼ同等の機能を有している事業と言われているとのことです。
  カードローン市場は衰える様子はありません。もしかしたら、一度は減少傾向であった個人の自己破産の申立ての件数も増えてくるかもしれないと思っています。
5.カードローンは、極度額の範囲内で自由に借入をすることができ、返済額も自分で設定することができます。借りる場所はコンビニのATMなど身近な場所で、一時的にお金が足りないときなどには、非常に便利なものであると思います。
  しかし、便利さゆえに必要以上に借りてしまい、最悪の場合、多重債務状態に陥ってしまいます(依頼者の方から、「初めはこんなに簡単にお金を借りられることに驚き、ついつい借り過ぎてしまい、最後のほうは返済のために借入をするようになっていた」という説明を受けたこともあります)。
  冒頭で述べたとおり、友人とお金の貸し借りをするのは望ましくないと言われておりますが、友人や家族からお金を借りようとした場合には、その用途を尋ねられ説明しなければならないことやお金を借りること自体うるさく言われることで、それが抑止になってくれるとも考えられます。
  しかし、カードローンの場合には、ATMにキャッシュカードを入れて、必要な数字を入力するだけで簡単にお金を借りることができます。ATMが、借りたお金を何に使うのかとか、無駄遣いするなどの声をかけてくれることはありません。
  カードローンを利用する場合、借り過ぎることがないよう自分自身で自制し、CMで紹介されているように「計画的」な利用が求められます。