弁護士 荒井 剛
2017.06.28

空き家が多くなっています

 釧路市のメインストリートと呼ばれる北大通。かつては人で溢れかえり、活気があったと聞いています。釧路市の人口は1980年(昭和55年)の22万7000人をピークに、2017年5月現在、17万3000人にまで減少してしまいました。釧路市に限らず、多くの地方都市でも同じ傾向がみられるのではないかと思います。そして、人口減少の影響もあってか誰も住んでいないと思われる「空き家」が多くなってきているように感じられます。また、高齢者比率が高まり、高齢者が施設に入所するケースが増えてくると高齢者が居住していた建物が空き家になっていくケースも増えていくと思います。
 
最近、古い看板が落下し、人が怪我をするというニュースを耳にします。看板がなくても空き家の場合、建物の老朽化に伴い、外壁や屋根の一部がはがれ、風に飛ばされて人を負傷させる、あるいは第三者の建物や車を損壊させるという危険があります。それだけでなくごみ等の不法投棄場所として利用されていれば衛生上の問題も生じます。また、植栽の不整備、害虫・害獣の増殖による問題も起こりえます。空き家をそのまま放置すればこのような倒壊による被害、飛散による被害、衛生上による被害等、多くの悪影響が懸念されるところです。 そこで、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空き家等の活用を促進させることを目的に、2014年(平成26年)11月に「空き家対策特別措置法」が成立しました。

 ただ、この法律ができたからといって行政がいきなり空き家に対し強制撤去することができるということではありません。まずは市町村が空き家の所有者に対し、適切な管理を促進するための助言をし、その助言に従わない場合には、勧告をするということになります。改善勧告があると固定資産税の特例(優遇措置)から除外されることになります。日本では、土地と建物それぞれに固定資産税がかかりますが、土地に建物(空き家)がある場合、土地の固定資産税は大きく軽減されることになります。
 逆に、空き家を解体してしまうと、土地から建物がなくなるので更地と評価され、土地の固定資産税があがってしまうことになります。そのため、空き家があっても所有者は無理にお金をかけて解体するのではなく、そのまま放置するということが多かったのですが、今回の法律により、優遇措置が受けられないのであれば、自主的に所有者において解体等、適切な対策をとってくれることが期待されます。

 それでも、所有者側が空き家を解体しないという場合には、最終手段として、市町村が代替執行をして強制撤去するということになります。その場合の費用は空き家の所有者が負担することになりますので、後日、強制撤去に要した金銭を市町村から請求される可能性があります。
もっとも、これらの市町村の対応は、空き家の所有者の所在が判明し、所有者に対する助言・勧告が伝わることが前提になっております。しかし、中には空き家の所有者が現在、どこで何をしているのかまったくわからないという場合があります。また、調査した結果、すでに空き家の所有名義人が死亡していたということもありえます。

 このような場合はどうするのでしょうか。勝手に市町村が第三者の財産を処分することはできません。
もし、空き家所有者の親族に連絡を取ることができたとしても基本的に第三者の財産を勝手に処分することはできませんので、所有者の親族であっても親族という理由だけで勝手に空き家を処分することはできません。ただ、万が一、空き家が崩壊し、第三者に損害を与えてしまったという場合には、親族や相続人にも責任が及ぶ場合がありえます。

 そのような場合には、家庭裁判所に対し、「不在者財産管理人」もしくは「相続財産管理人」の選任を申し立て、財産管理人を通じて、空き家を解体するなり必要な対策を講じるという方法がありえます。申立自体に一定の費用が発生しますが、責任が降りかかってくるのを防止することはできます。
   
   私自身も裁判所から選任されて何名かの不在者財産管理人になっております。今後、空き家についての「財産管理人」が選任されるケースが増えていくのではないかと思います。寂しい気はしますが被害を未然に防止するという意味ではノスタルジックになっている場合ではなく現実的に一つ一つ処理していく必要があるのではないかと思われます。