消費者保護の実例~上級編~
平成29年2月21日、最高裁判所において有名な判決がありました。
いわゆる「京きものあづま事件」と言われる消費者事件で最高裁が判断を示したものです。
遡って、どんな事件だったかを見てみると、長い経過を辿っています。
平成24年1月頃、旭川でこのような相談がありました。
①馴染みの着物店の店主から、私、こんなことを言われたんです。
・高齢者の○○さんが信販会社からの融資を受けられなくて困っている
・名前を貸してくれるだけでいい
・支払いは、こちらでなんとかする
・絶対に迷惑をかけない
②私は、それを信用して高額な着物を買うことに協力しました(いわゆる名義貸し)。
③信販会社から、購入確認の電話がかかってきたので、それにも応対しちゃいました。
③その後、着物店が破綻したんです。
(なお、今、振り返って考えると、着物店は当時、経営が苦しく、信販会社から得られた代金を運転資金に回していたようです。)
④そしたら、私のところに、信販会社からの多額の請求がきました。どうしたらいいですか。
というものです。
同じような時期に、このような相談が旭川市内で相次いだそうです。
その後、旭川弁護士会は、「京きものあづま被害者弁護団」を結成し、弁護士会を挙げて被害者救済に動き出しました。
弁護団として、痛いところは、名義貸しをしている点で消費者に落ち度がある点です。
平成26年3月28日、一審の旭川地方裁判所では、見事、勝訴しました。
しかし、二審の札幌高等裁判所(平成26年12月18日判決)では、逆転敗訴。
それでも、弁護団は諦めず、上告し、今年2月21日、最高裁判所において、破棄差し戻しの判決を勝ち取りました。最高裁は、結局、審理のやり直しを求めたわけですが、その解釈方針を示す中で、消費者に有利な判断の枠組みを採用しました。
おさらいですが、初級編のコラムで紹介したように、「実際に、着物を購入していないけど、頼まれて契約をしてしまった」の事件ですから、当然、消費者は「売主」(着物店)からの請求を拒絶できるわけです。ただし、代金決済業者(信販会社)からの請求には、原則として、消費者は支払を拒絶したり、信販会社との契約を取り消したりはできません。これは、中級編のコラムで紹介した通りです。
そうだとしても、 消費者からすると一切拒絶できないのもおかしい気がします。信販会社も販売店を通じて利益を受けているのだから責任をとらせることができないか。こんな問題を、専門用語で「抗弁の接続(こうべんのせつぞく)」の問題と言ったりします。消費者が、売主(着物店)に対して主張できる反論(抗弁)を、決済代行業者にも併せて主張(接続)できないか、と言う問題です。
最高裁は、以下のように示しました(一文が長くややこしいので読み飛ばして構いません)。
「立替払契約が購入者の承諾の下で名義貸しという不正な方法によって締結されたものであったとしても、それが販売業者の依頼に基づくものであり、その依頼の際、契約締結を必要とする事情、契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無、契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生ずる可能性の有無など、契約締結の動機に関する重要な事項について販売業者による不実告知があった場合には、これによって購入者に誤認が生じ、その結果、立替払契約が締結される可能性もあるといえる。このような経過で立替払契約が締結されたときは、購入者は販売業者に利用されたとも評価し得るのであり、購入者として保護に値しないということはできないから、割賦販売法35条の3の13第1項6号に掲げる事項につき不実告知があったとして立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことを認めても、同号の趣旨に反するものとはいえない。」。(なお、最高裁は改正法の前後で判断を分けて提示していますが、内容が複雑になるため割愛します。)。
もともと、この最高裁が示される前に、こんな法改正がありました。
販売業者が、不実告知(いわゆる「ウソ」)等によって、不当に勧誘を行った場合に、消費者は、個別クレジット契約を取り消して、個別クレジット業者(信販会社)に支払ったお金を返還できる(割賦販売法35条の3の13第1項)。
ただ、どんな事項(対象)であっても、「ウソ」をついたから取消しができるとするのは、営業トークなどもあり、範囲が広すぎます。
この「ウソ」の対象を、限定的に捉えたのが札幌高裁でした。
これに対して、最高裁は、その対象を広く考え、また、名義貸しであっても、消費者が販売店に利用されたと評価し得る場合には、名義貸しだからといって直ちに保護に値しないとは言えないとし、消費者保護の判断を示しました。従来、信販会社の請求を認めてきた裁判例とは異なる姿勢を今回の最高裁が示した点に大きな意義があります。
当然ですが、こんな最高裁判決が出たからと言って、名義貸しをしてもよいというわけではありません。名義貸しが不正であることは明らかですから、不正なものやいかがわしいものには、たとえ人助けだとしても手を貸さないことが大事です。
なお、以上は、法律の解釈の問題でしたが、事実をどのように認定してもらうかという問題もあったと、弁護団の方に聞いたことがあります。
例えば、消費者が、「京きものあづま」の代表者から、どんな説明を受けたかと言う点ですが、証人尋問の前に、代表者が亡くなってしまったそうです。その場合、直接、法廷で、今回の事件の張本人とも言うべき人を証人として尋問することができません。そのため、代表者の話を事情聴取した録音媒体及び録音反訳書を裁判所に証拠として提出するなどして、立証を積み重ねたそうです。法律関係としても、事実関係としても、大変な事件であり、この点からも弁護団の苦労が垣間見えます。
他の類似事件においても、多くの被害者を救済する可能性を秘めた弁護団の活動の功績は非常に大きく、自らの弁護活動を行う上でも、参考にすべき点が多くあります。