弁護士 荒井 剛
2017.06.01

日本国憲法70周年 古希!

 日本国憲法が1947年5月3日に施行されてから今年で70年を迎えます。

 人の場合、「人生七十古希稀なり」(中国の詩人・杜甫の詩)と言われるように、昔はそもそも70歳まで生きる自体が稀だったため70歳を迎えると「古希」のお祝いをすることが多いかと思います。古希のお祝いということではないですが、5月26日に東京で開催された日本弁護士連合会の定期総会にて、「日本国憲法施行70年を迎え、改めて憲法の意義を確認し、立憲主義を堅持する宣言」が決議されました(宣言の全文は日弁連のホームページを参照してください)。

 日本国憲法は、法で国家権力を制限し国民の人権を守ろうとする近代立憲主義を継承したものであることに加え、世界人権宣言(1948年採択)や自由権規約・社会権規約(1966年採択)など国際人権に関する諸条約等に先駆けて幸福追求権、人身の自由、生存権、労働基本権等の豊富な人権規定を設けた点で国際的な先駆性が認められます。また、恒久平和主義を徹底している点においても大きな意義があります。この点をあらためて確認しようという内容の宣言です。

 日本国憲法はアメリカからの押し付け憲法だと言っている人もいます。たしかにマッカーサー側から草案を示されそれを基に創り上げられたという流れがありますが、重要なのはその内容です。上記の通り、日本国憲法は、近代立憲主義を継承しているとともに国際的な先駆性があることや恒久平和主義を徹底している点は意義深いと思います。ここ最近、憲法9条の改正問題や共謀罪関連の問題で日本国憲法がマスコミでも大きく取り上げられることが多くなってきていると思います。

 特にテロ対策のために共謀罪が必要だとか、有事のときに今の憲法で守ってくれるのかという話も出たりします。ただ、日本国憲法の内容が意義深いものかどうかという話と、テロ対策が必要かどうかという話は別次元の話です。テロ対策が必要なのはその通りです。誰もテロ対策が不要だと言っておりませんし、今の憲法が大事だと言っている人たちもテロ対策が不要だなんて一言も言っていません。ただ黙って指をくわえて見ていれば平和が保たれるなどとも言っていません。ちょっと議論がずれているのではないかと感じます。

 では憲法って何が大事なのだろう、今の日本国憲法のどこが大事なのだろうか、そして、これをどう説明すればいいのだろうか。特に子ども達にはどう説明すればいいのだろうか。そんなときに本当にお薦めしたい本があります。佐藤功さんの「憲法と君たち」という本です。もともとは60年ほど前に書かれたものなのですが、昨年10月に「復刻新装版 憲法と君たち」となって時事通信社から発売されました。新進気鋭の憲法学者である木村草太さんも薦めていたため私も早速1冊購入して読んでみました。戦後間もないころの本であるため徹底した平和主義を採用した点が日本国憲法のもっとも誇れる点であることが強調されております。それから60年が経過し、国際情勢も変わってきています。平和主義についてもいろいろな意見もあるところではありますが、平和主義を徹底しようとした思い、それを憲法に明記したという意義は重いと思います。

 この本の冒頭に佐藤功さんの娘さんが復刻新装版の出版に際して寄せた文が掲載されております。幼いころ、ラジオから流れるお父さんの憲法の話が大好きだった、憲法の詳しい話はわからないけど、お父さんが語りかける声は明るく希望に満ちていた、お父さんが自慢だったという内容です。そのようにお父さんを思える娘さんもすごいなと思うと同時に、そのように思わせる佐藤功さんもすごいと思いました。本編の内容も非常に平易な言葉で語られております。憲法学というより最初はルールの大切さ、つまり、法学を伝えるところから始まり、その後、世界の憲法の歴史を振り返り、そして、近代立憲主義の憲法がいかにして形作られていったのかを丁寧に説明してくれています。

 また、日本についても300年続いた鎖国時代の話から、明治憲法の制定の経緯、さらに日本国憲法制定の際、天皇制を残しつつもいかに天皇が政治利用されないように工夫したのかといったことも丁寧に書かれています。かつて、天皇の名を語り、天皇の名のもとで、自ら都合のいい政治をしようとした内閣に対し、激しく議会で抵抗した尾崎行雄という代議士がいました。「かれらのなすところを見るに、玉座をもって障壁となし、詔勅をもって弾丸となし、もって政敵を狙撃せんとするものである。」。これを聞いた当時の内閣は震え上がったそうです。いまでは天皇が政治利用されることはないですが「テロ対策のため」といえば何でも規制が許されるのではないかといった風潮が見受けられるのが少し心配です。

 さて、本の紹介に戻りますが、機会があれば是非ご一読していただきたいと思います。憲法と聞くとちょっと苦手だな、あまり考えたくないし、難しいなと思っている方ほど読んでいただきたい本です。