弁護士 小田 康夫
2017.03.08

専門職後見人はつらいよ

 先日、専門職後見人の合同研修会に参加しました。

 社会福祉士や税理士、司法書士、行政書士、弁護士などの士業が約20名前後集まり、後見事件を担当した際に起きたトラブルなどの事例が紹介され、意見交換が行われました。事例では、被後見人が飼っている動物の管理が問題となったケースや、被後見人の親族の意向が強く、後見人が適切な財産の引き継ぎを行えないケースなどが紹介されました。私が衝撃を受けたのは、他人の財産管理を(対価を得るための)仕事として行っている専門職後見人が選任されながら、無報酬のケースがあった点です。

 後見人の業務は多様です。

 後見人に就任したら直ちに被後見人や親族等から生活状況・財産の管理状況の聴取、通帳・証券・印鑑等を引き継ぎ、金融機関等への照会、保険等の確認を行います。通帳等を見て多額の預金の引き出しがある場合には関係者に聴取を行うなどします。被後見人の財産の調査を行った後、財産目録を作成し、家庭裁判所に提出します。その後も状況の変化があれば家庭裁判所と協議し、状況の変化がなくとも定期的な報告をします。このような財産管理業務を遂行するため、後見人は被後見人の財産から家庭裁判所が決定した報酬を受領します。とりわけ、専門職後見人が関与するケースは、被後見人に多額の財産あるいは多額の借金がある場合や親族だけでは解決困難な法的トラブルを抱えている場合などです。このようなケースでは、被後見人の借金について法的な整理を行ったり、あるいは財産の逸失を防止するために関係者と交渉をしたりするなど財産管理に時間や手間を要する場合もあります。また、財産が多額であればあるほど財産管理にはリスクが伴います。専門職後見人が業務をする場合にはリスクの大きい手間のかかるケースが多く、そのリスクや手間に見合った報酬が家庭裁判所から付与されると言われています。

 しかし、実際の運用状況を見ると、専門職後見人の業務に見合った適切な報酬額が付与されないケースが多いと聞きますし、今回の研修会で話を聴いていると、被後見人が十分な財産を有しない場合や親族等から財産の引き継ぎが困難な場合など、専門職が後見人として各種手続きを行いながら、無報酬で財産管理に関与しているケースがあるとのことです。専門職後見人に適切な報酬が付与されなければ、将来的に専門職後見人になりたいと考える者がいなくなってしまうのではないでしょうか。専門職後見人がリスクに見合うリターンが得られず、かつ、家庭裁判所から選任されるにあたり大きな負担(時間的な負担や経済的な出捐)を伴うとなれば、そんな危険な業務を引き受けたくないはずです。

 最近は、専門職後見人の横領事件が数多く報道され、それを受けて、各種団体で専門職後見人への監視体制を強化したり、被害者に対する補償制度が創設されようとしています。確かに、横領事件があった場合に被害者の救済は不可欠でしょう。ただ、専門職後見人に対する厳しい態度が、将来的に専門職後見人のなり手不足を生み、より深刻な問題に発展しないかも考える必要があります。日本の人口の4分の1は65歳以上の高齢者であり、その割合は今後も増えていくと言われています。高齢者の増加に伴い認知症患者が増加し、その者の親族や関係者が財産を不当に流用するケースも増えるかもしれません。そして、専門職が選任されるのは、親族の横領が疑われたり、被後見人が多額の財産を有している場合など、親族等では財産管理が困難なケースですから、仮に専門職後見人のなり手が不足し、財産逸失の未然防止ができないとなれば、被後見人の被害は深刻なものになるでしょう。被後見人に対する支援はもちろん、専門職後見人に対する支援、すなわち公的な報酬制度を創設することや専門職後見人のなり手不足を解消するためのシステムを構築することを積極的に検討しなければならない時期に来ているのではないでしょうか。