弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 荒井 剛
2016.12.28

休煙のすすめ

 私は現在40代前半ですが20代半ばまでタバコを吸っていました。当時はまだ司法試験に合格する前でしたし、今とは違ってロースクール制度もなかった時代ですから、単なる司法試験受験生でした。ただのプータローです。そんな身分でタバコなんて吸っている場合ではないという気持ちもありましたが、ずっと机の上で勉強していると気分が滅入るため、気分転換のためにもタバコを吸っていました。1時間に1本というペースで吸っていましたが、だんだんと勉強の息抜きにタバコを吸うのではなく、タバコを吸うために勉強をしている自分がいることに気づきました。次の休憩まであと10分、・・・あと5分・・・あと1分などと勉強に集中できなくなってきたのでこのままでは司法試験に合格できないなと感じ、26歳のころに、一旦、タバコを止めることにしました。

 ただ、その時点では禁煙するつもりはなく、ちょっと数日間、タバコを止めてみようかなという程度の軽い気持ちでした。実は、それまでにも禁煙しようとしたことが何回もありました。しかし、1日しか持たなかったり、決意が本物であることを示すため当時、愛用していたZippoライターをゴミに出したりもしましたが、わずか1週間もたたずに再びタバコを吸い始め、結果、より高価なZippoを買い直すという愚かな行動を繰り返していたりしました。

 そこで、相当な覚悟を決めて臨むのではなく、少し軽い感じでチャレンジしてみることにしたのです。そんな軽い気持ちだったのがよかったのか、あっという間に数日が経過し、そして、1週間が経過し、さらに1か月が経過しました。その時点で、あれっ、一か月もタバコを吸わずに生活できているなと思い、こうなったらもう少し粘ってみるかとまるで記録を更新して喜ぶアスリートのような感覚で1日、そして、また1日とタバコを吸わない日を過ごし続けた結果、気がついたら1年が経過していました。

 しかし、1年が経過した時点でも私は決してタバコを「禁煙」したとは思わないようにしておりましたし、周囲にも「禁煙」したとは言わないようにしていました。あくまでタバコをちょっとやめているだけであり、言ってみれば「休煙」に過ぎないと言い聞かせておりました。ただ、せっかく1年、休煙できたのであるから、もうちょっと続けてみようと思い、さらに1年、「休煙」を続けてみたところなんと司法試験に合格してしまいました。

 こうなるともう行くところまで「休煙」してみようと思い、「休煙」を続けていたところ今日現在に至っております。かれこれ20年近く「休煙」していることになります。いまだに夢でタバコを一本吸ってしまい、ああ吸ってしまったと後悔しながら目を覚まし、それが夢であるとわかってホッとするということがあります。

 ところでJTの全国喫煙者率調査によれば今から20年前の平成8年の成人男性喫煙率は63.4%だったそうです。それが平成28年になると27.2%にまで減少しています。この20年で大きく喫煙率が減少したことになります。JTの調査なので多少、喫煙率を抑えめにした統計をとっている可能性が無いわけではないですが、WHO(世界保健機構)のデータによっても2016年の日本男性(15歳以上)の喫煙率は33.7%とされていますので現在の日本男性の喫煙率は30%前後まで減少したということは間違いなさそうです。

 時代が変わったなとつくづく感じます。ちょっと前までは新幹線や特急列車にも喫煙車両がありましたし、飛行機の中でもタバコを吸える席があったと記憶しております。オフィスや飲食店でも普通にタバコが吸えていましたし、タクシーではタバコが吸えることが多かったためタクシーの室内は常にタバコ臭かったという印象があります。そして、街中を歩けば普通にタバコ自販機があり、誰でもタバコが買える状況でした。タバコのポイ捨ても歩きながらタバコを吸っている人も当たり前のようにいました。

 それがここ20年で大きく様変わりしました。全国の自治体で「ポイ捨て禁止条例」が多く制定されたほか、平成14年10月に東京都千代田区で初めて「歩きタバコ禁止条例」が制定された以降、同様の条例が全国的でも制定されつつあります。また、同じ平成14年に「健康増進法」が成立し、人が多く出入りするような公共の場所では他人のタバコの煙を吸わされることのないよう受動喫煙防止の措置を講じなければならないとされました。

 新幹線、特急列車、飛行機も全面禁煙となり、オフィス、官公庁舎内では狭い喫煙室でしかタバコを吸わしてもらえません。最近では建物の外でしか吸わしてもらえないところもあります。飲食店でも昼の時間帯は全面禁煙になるところが増えてきています。今ではほとんどのタクシーが全面禁煙となり、タバコ臭さがなくなりました。タバコの自販機数も減少の一途をたどり、タスポカードがないと買うこともできません。また、何より一箱あたりの値段が20年前と比較して倍以上になっています。

 さらに世界的に見ても禁煙・嫌煙化傾向が一層強まっております。グロテスクな臓器(真っ黒な肺)やドクロの絵等をパッケージ写真として使ったり、これを吸うとあなたはガンになって死にますよと警告文言が記載されたりしています。WHO(世界保健機構)のタバコ喫煙率国別ランキング(2016)によれば日本の順位は60位です。カナダ(17.7%:115位)、アメリカ(19.5%:109位)、イギリス(19.9%:108位)、イタリア(28.3%、78位)、フランス(29.8%:73位)、ドイツ(32.4%:62位)等の欧米先進諸国と比較すると依然として日本の喫煙率は高いといえます。

 こんなにも喫煙者にとって肩身の狭い世の中になるとは正直思っていませんでした。

 そして、この傾向はさらに進んでいく感じがします。このような世界になっていくことを非常に面白可笑しく書きあげた小説があります。筒井康隆さんの「最後の喫煙者」という短編小説です。30年前の昭和62年に書かれた作品なのですが、成人男性喫煙率が71.2%もある時代であったにも関わらずよくこのような作品を書いているなと思わずにはいられません。喫煙者狩りから逃れた主人公が国内最後の喫煙者となって国会議事堂の頂きによじ登り、最後の抵抗を示すというシーンから始まり、なぜこのような事態になったのかを回顧するところから始まります。そのシチュエーションからしてもう可笑しくて仕方がないのですが、先日、久々にこれを読み返す機会があったため、これに関連するコラムを書くことにしました。

 こんな世の中になってきた以上、私はさらに当面の間、「休煙」を続けることにします。