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弁護士 小田 康夫
2016.07.08

「それでもボクはやってない」~刑事司法制度改革~

周防正之監督が、電車内における痴漢冤罪事件を素材に、日本の刑事裁判、刑事弁護をリアルに描いた映画です。弁護人役を役所広司、冷徹な裁判官役を小日向文世が演じます。

周防監督や俳優さんが実際の刑事裁判を何度も傍聴したであろうことは映像の端々から伝わります。



刑事事件においては身柄の解放がなかなか認められない中、密室での取り調べによって、被疑者が虚偽の自白をしてしまうことなどが問題視されています。

また、村木厚子氏の郵便不正冤罪事件では、検察側が描いたストーリーに沿うような虚偽の供述調書が作成されたり、検察側が証拠をねつ造したりしました。



このような反省を踏まえ、刑事司法制度の改革の審議が始まったのが平成23年6月頃。

そして、5年の時を経て、今年5月24日、改正法案が衆議院本会議で可決、成立しました。

本法案の改正のポイントは大きく5つあります。













①他人の犯罪を明らかにすれば見返りに罪が軽くなる「司法取引」の導入。

②取り調べの録音・録画(可視化)を一部、義務付けること。

③薬物事犯などに限られていた通信傍受は対象を拡大し、殺人や強盗、詐欺、児童買春などを加えたこと。

④弁護側の請求に応じて検察の保管証拠の一覧表を交付することを義務付けたこと。

⑤勾留された被疑者に国で弁護人を付ける被疑者国選制度は、これまで暴行等の一部事件が除かれていたところ、すべての事件に対象を拡大したこと。













弁護側が証拠を把握しやすくなった面はあり、評価できる部分はあります。

ただ、「司法取引」の導入(①)と通信傍受の対象拡大(③)は捜査権限を拡大させるものです。



捜査官としては、組織の末端の者を捕まえて、「あなたの罪を軽くしてあげますから、誰が黒幕か教えてほしい」というわけです。被疑者の中には、自分の罪を軽くするために、「Aさんに命じられただけだ」と、無関係の第三者(A)を自分の犯罪(中には、ありもしない架空の犯罪)に引っ張り込む人もいるかもしれません。検察官の中には、自分のストーリーに沿って事件の黒幕をでっちあげることもあるかもしれません(あれれ、どこかで聞いたことがある話ですね)。



また、②で可視化が義務化されるのは、取り調べ全体の3パーセントにすぎないと言われています。例えば、別件の軽い窃盗事件で逮捕された後に、その中の取り調べで、殺人事件の取り調べが行われた場合、録音録画の対象にならないなどの問題が残ります。むしろ、別件逮捕の時点で、捜査官が自白を迫った結果、被疑者が無実でありながら、ビデオカメラの前では、特に問題のない態度で自白をしてしまい、それを法廷で見た裁判官・裁判員がその自白の様子を信じてしまうということも考えられます。



このような事態を危惧して、当初、冤罪事件をなくすために始まった刑事司法制度改革が、なぜか、逆に冤罪を助長してしまうのではないか、そんな批判があります。

私も、この批判は妥当なものだと思います。

司法取引には、大きく分けて、(1)自分の罪を認めれば、自分の罪が軽くなるもの、と(2)他人の罪を話せば、自分の罪が軽くなるものがありますが、今回の改正は(2)のみを採用しており、片手落ちですし、また、取り調べの全面可視化の義務付けによって、自白を迫る取り調べはなくなり、かつ、無用な捜査機関への不信感も払しょくできるはずです。

その意味で、刑事司法制度改革はまだ道半ば。早期の制度改正を進めるのが筋道ではないでしょうか。