弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 鍛冶 孝亮
2014.05.21

約束の海

先日、作家の渡辺淳一さんが亡くなられました。

自分のお気に入りの作家が亡くなり、「もうこの人の本は読めないのか」と寂しい思いをしたことはないでしょうか?



昨年、作品を読むことを楽しみにしていた作家山崎豊子さんが亡くなりました。

山崎豊子さんの訃報を聞いて、今でも残念な気持ちでいっぱいです。



山崎豊子さんの作品に出合ったのは大学生のときで、初めて読んだ作品は航空会社の腐敗を描いた『沈まぬ太陽』でした。

その後、ドラマにもなった『白い巨塔』、『華麗なる一族』などを読み、社会派小説と言われる山崎豊子さんの作品に引き込まれていきました。



特に印象に残っている作品は、戦争三部作と言われる『不毛地帯』、『二つの祖国』、『大地の子』です。

『不毛地帯』にはシベリア抑留の話が、『二つの祖国』には太平洋戦争の開戦による在米日系人の悲劇の話が、『大地の子』には中国残留孤児の話が出てきます。



戦争三部作に出てくる話は、私にも無関係はものではありませんでした。

私の母方の祖父はシベリアで抑留されていたと聞いておりますし、私の父方の祖母は終戦後、終戦後満州から日本へ引き揚げて来たと聞いています。

これらの作品を読んだことで、先の戦争によって祖父母たちが体験したことを少しでもわかった気がします。



山崎豊子さんは、女学生時代軍需工場に動員されたこともあり、戦争に翻弄された自分の体験を重ねながら作品を書かれていたようです。



山崎豊子さんの未完の作品も戦争がテーマの作品でした。それが『約束の海』という作品です。今年の2月、予定されていた全第3部のうち、完成した第1部のみが出版されました。

海上自衛隊の潜水艦と釣り船が衝突したという事件を発端に、海上自衛隊の主人公は激しい自衛隊バッシングを受けながらも、日本国民を守る自衛隊の役割を考えていくことになります。そして、真珠湾攻撃に参戦し捕虜となった主人公の父から「この日本の海を、二度と戦場にしてはならぬ」と言葉をかけられます。

物語のクライマックスは、東シナ海で一触即発の事態が発生するという構成だったようです。

「戦争をしないための軍隊」について、読者とともに考えていく作品であり、未完の作品になったことが残念でたまらないです。



山﨑豊子さんは、読者に向けて次のメッセージを残しています。

「戦争は絶対に反対ですが、だからといって守るだけの力も持ってはいけない、という考えには同調できません。」、「いろいろ勉強していくうちに、「戦争をしないための軍隊」、という存在を追究してみたくなりました。」、「尖閣列島の話にせよ、すぐにこうだ、と一刀両断に出来る問題ではありません。自衛隊は反対だ、とかイエスかノーかで単純にわりきれなくなった時代です。」、「戦争は私の中から消えることのないテーマです。戦争の時代に生きた私の「書かなければならない」という使命感が、私を突き動かすのです」



最近、集団的自衛権の行使に関する議論が活発になってきています。そのようなこともあって、今回このコラムを書きました。

戦争のきっかけに関与しているのは一部の人間ですが、その被害に巻き込まれるのは多くの国民です。

集団的自衛権を考えるにあたり、山﨑豊子さんが訴えているように、平和憲法の下での自衛隊の存在意義について、国民全体が深い議論をしていく必要があるのではないでしょうか。