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弁護士 鍛冶 孝亮
2013.10.22

TPPと国民皆保険制度

TPP問題が騒がれている中、『TPPでどうなる?あなたの生活と仕事』(宝島社)という雑誌が、TPPについてわかりやすく解説されていると聞き、購入して読んでみることにしました。



確かに、図や表を用いながらわかりやすく解説されていると思いました。
この雑誌の中に、TPPの影響の1つとして、「製薬会社と保険会社が儲かる構造に!」というテーマがありました。このテーマの部分では、TPP参加により、日本の国民皆保険制度が崩壊し、日本の医療現場が「市場」となるだろうと書かれております。

このテーマに関係し、『華氏911』などのドキュメンタリー映画で有名なマイケル・ムーア監督の映画『SiCKO(シッコ)』という映画が紹介されていました。この映画は、アメリカの医療保険制度の実情に迫るドキュメンタリーです。
雑誌での紹介文が気になったため、レンタルをして見ることにしましたが、アメリカの信じられない医療現場を知り唖然となりました。



映画が作成された当時、アメリカには国民皆保険制度がありませんでした(現在は医療保険改革法が成立しているようですが、国内の反対で国民皆保険制度はいまだに実現していないようです)。

日本では、健康保険料を支払う代わりに、実際に発生した医療費の1割から3割のみを負担するという国民皆保険制度がありますが、アメリカでの医療費は全額自己負担となります。そこで、多くのアメリカ国民は医療保険に加入することになります。



保険に入ることができなかった人は、高額の医療費を支払わなければ医療を受けられません。
映画では、チェーンソーで中指と薬指を切り落とした人が紹介されました。その人は病院から、「接合費は中指が6万ドル、薬指が1万2千ドルかかる」と言われ、両指を接合してもらうお金がないので薬指だけを手術してもらったと答えています。



医療保険に加入することができたからといって安心することはできません。
映画では、保険会社に医療費の支払を求めると、「医学的に必要性のない治療である」、「実験的な治療である」といって、支払を拒まれる場面が紹介されます。

また、子どもが発作を起こしたため病院へ運ぼうとしたところ、保険会社の系列病院でなければ保険は支払うことができないと言われ、病院を探しているうちに手遅れになったケース、交通事故に遭い救急車で運ばれたところ、事前許可を得ないで救急車を使用したとして保険金支払が拒絶されたケース、医師からガンと診断されているのに、保険会社は「あなたの年齢でそのガンはありえない」といい、保険金の支払を拒絶するケースなど、日本にいたら信じられないケースが次々と紹介されます。



医学的に治療の必要性が認められたとしても、保険会社は、保険の申込時に伝えていなかった既往症(本人も忘れているような些細な病気についても)や契約書の細かなミスを探し保険の支払を拒みます。
保険会社にとって、保険の支払を行うことは「医療損失」と呼ばれているようです。アメリカの医療現場は、金儲けの場所となっていると紹介されています。



アメリカの病院は、医療を支払うことができない患者をタクシーに乗せスラム街に捨てることも珍しくないようです。
ムーア監督は、このような病院の仕打ちについて、「底辺に生きる者への接し方で、その社会の本質が分かる」と述べています。



この映画を見て、誰もが健康で文化的な生活を営むためには、いつでも安心して適切な医療を受ける制度が必要であると考えさせられました。

なお、この映画では、イギリス、フランス、キューバといった他の国の医療制度や社会保障制度も紹介されています。
社会保障について考えさせられる社会派ドキュメンタリー作品ですので、気になる方は是非ご覧になってください。



TPPに話を戻しますと、TPPでは自由な企業活動を制限するような「非関税障壁」の撤廃も議論の対象になると言われております。

医療の話をすると、国民皆保険制度のもとでは、アメリカの医療保険会社が自国のように自由な活動を行うことができないので、TPP参加により、保険会社の医療現場への参入を阻害する「非関税障壁」である国民皆保険制度がなくなる可能性が出てきます。



弁護士として考えたことは、国民皆保険がなくなり、医療の支払のために民間の保険に加入しなければならなくなった場合、不当に保険料の支払拒む保険会社に対する訴訟が増えてくるのではないか、なにより、貧困や既往症のために保険に加入できず、適切な医療行為を受けられない人が多く出てくるのではないかということです。

そのようなことになってしまうと、日本国憲法で定める幸福追求権(第13条)や生存権(第25条)が侵害されることになってしまいます。

TPPに参加にあたっては、経済的な利益の観点だけではなく、国民の基本的人権が侵害されないのかどうかについても十分に検討すべきです。
なお、日本医師会もTPP加入に関し、「国民皆保険」の堅持の意見を述べております。



このように、TPPついては、弁護士としても、国民の基本的人権を擁護(弁護士法1条)という使命のために、TPPに関する知識を収集し、しっかりと意見をいう必要があると感じました。