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弁護士 小田 康夫
2022.03.19

裁判外での交渉

ある日、BはAさんが経営しているスナックを訪れ、お酒を飲んでいました。
AさんがBに軽口を言ったところ、
それに怒ったBが、A店舗のドアを、蹴って破損したという架空のケースがあるとします。

裁判外の交渉をしなかったらどうなるか。
いきなり被害者のAさんは民事訴訟を提起することはできますが、裁判は時間がかかりますから直ちに示談金を受け取ることはできません。一方で、加害者Bとしては、最終的には民事上の賠償責任は免れませんし、また、器物損壊事件の場合、Aの告訴があれば、一定の刑事処分はなされるのが普通ですし、Aさんへの賠償が遅れれば刑事処分が軽くなることはありません。

こんな場面で、弁護士が(双方に)介入した場合、Aの利益とBの利益が合致する点で裁判外の交渉がうまくいくケースがあります。

よくあるケースですが、
Bの弁護人が、Aさんに対し、「解決金として早期に賠償をさせていただきますので、告訴を取り下げてもらえないでしょうか」というお願いのお手紙を出す場面があります。

確かにAさんとしては複雑です。Aさんとしては、
●「Bを刑事事件で厳罰に処してほしい」という思いもある一方で、
●「民事事件では、破損したドアの修理費のほかに(これからさらに拡大するかもしれない)営業損害もちゃんと払ってほしい」と考えているのが普通です。
●さらに一歩進んで、刑事処分は諦めたとしても、「刑事処分を求める代わりに、賠償の(将来発生しうる営業損害を含めて)上乗せして賠償してくれるなら、応じてもよい」という考えもあり得ます。

このような考えをひっくるめて、弁護士としては、Aさんと一緒に、「落としどころ」を探るのが弁護士の役割の一つです。

当然ですが、弁護士はAさんの代理人として、Aさんの最大の利益を考えることになります。Aさんの最大の利益を考えるにあたっては、(矛盾するように感じるかもしれませんが)B側の利益を知っておく必要があります。弁護士というのは一般に、対立当事者であるB側の弁護、つまり、刑事事件も多く扱っているので、弁護士の経験上、加害者側の事情もよく知っているのが通常です。例えば、加害者Bさんの立場としては、
●「酔っぱらって殴ってしまいました。Aさんにちゃんと謝罪して、可能であれば、Aさんから許してもらい、刑事処分を求めないと言ってもらえたらうれしい(刑事処分の回避)。」
●「ドア等の修理代金を払って、今後、今回の事件を含めて、何らの賠償が求められないようにしてほしい(民事事件の終局的解決)。」という風に考えているケースがあり、
●さらに、「私(B)の両親は、資金的に協力ができる」という状況もあります。

Aさんの弁護士のとしてはABの利益状況を分析して、
●AはBの刑事処分に強いこだわりがない
●AがBの刑事処分を求めないという合意(告訴取下げ合意)をする代わりに、ドアの修理代金のほかに、きちんと将来分の営業損害を上乗せして賠償をしてもらう
●上乗せの賠償まで認めるなら、Bの不安を解消するため、追加で損害賠償請求をしないという清算条項をつける
という示談案の骨格が出来上がります。

×裁判では時間がかかる
×裁判では将来の営業損害という曖昧な部分は立証不足のリスクがある

◎裁判をしないで早期解決(Aさんにとって手元資金の確保)
◎裁判では認められにくい将来の営業損害までの賠償も認めてもらう

Aさんの弁護士がやっているのは、(Bの利益も考慮しながらも)あくまでAさんの利益が最大になるよう交渉をしていたということです。

ここまでは具体的に弁護士の交渉業務の一部を見てきましたが、翻って、「交渉とは」いったい何でしょうか。

一般に、交渉で一番重要なのは、「WinWinを見つけること」とされます。逆に、一番ダメなのは、「自分は可哀そうですよね」という点を全面に押し出すこと」。

上のケースとは別のケースで、例えば、
C社がD社との間で取引をしていて、
C社の商品を、D社が仕入れ販売している際、
C社が「ある人」のミスにより損害を受けたケースを考えます。
C社が、「損害1000万円を支払え。」と言っても、
D社は、「払ったとしてもせいぜい100万円だ。」
などと反論します。

C社の最大の利益が1000万円
↑↓
D社の最大の利益がゼロ(せいぜい100万円)

C社がいくら「C社はこんなことをされて可哀そうでしょ」と言っても、D社にとっても、「自分だって不当な請求をされている。可哀そうなのは、むしろこっちのほうだ」と言うはずです。

事例に追加情報を与えますと、例えば、D社を辞めた従業員Xが、D社を退社したことを黙ってC社に詐欺を働き、C社の商品1000万円分を、D社の仕入れと称して持ち逃げしたケースを考えると、確かに、C社もD社も、「かわいそう」ですし、双方の気持ちはわかりますが、「かわいそう」と言い続けても、話が始まりません。

交渉のポイントは以下の4点です。
  ①WinWinを見つけること
  ②利益共通を探るには、相手方に立場になって考えること
  ③交渉の序盤では、特に(双方当事者の)情報が重要であること
  ④継続的なやり取りの中で、情報を集約・分析し、利益状況を正確に見極め、「落としどころ」 
  をること






「WinWinを見つける」というのは、言い換えれば、双方当事者の利益共通を探ることです。

双方の利益が共通する状況が見えやすい場面(冒頭の被害者AさんとBの場面)であれば、弁護士としては良く見るケースの一つで分かりやすいのですが、そうではない場面(C社とD社の場面)であれば、双方の利益を調査して見極めることが必要となります。

C社とD社の利益が共通する部分とは何か。
それは多くのケースでは、早期解決の点や今後の取引への影響、他の取引先に及ぼす影響などはCD両社にとって共通する利益です。


いずれの立場であっても、何を他方当事者が利益であると考え、何を(どの部分を、どの程度)重視しているのかを、相手方の立場になって、良く分析する必要があります。


裁判外の交渉では、裁判の中で問題になる事情よりも、多くの考慮要素が複雑に絡み合います。

というのも、裁判になれば、交渉開始時点から既に一定の時間が経過しており、当事者としても、早期解決を望まず「徹底的に争って、白黒つけてほしい」という強い意向を有しているケースが多いからです。言い方を変えると、終局的な解決策を示す判決に向かえば向かうほど、交渉という解決手段は選択肢から遠ざかっていきますから、相手方の利益はどうでも良くなっていき、考慮要素は少なくなっていきます。

利益共通を探るという観点でみると、交渉の序盤は、特に重要です。
相手方の意向も含めた種々の情報を集めることで、相手方も「おおごとにしたくない」という気持ちがあり、早期解決を望んでいることがわかると、一定の落としどころが見つけやすくなります。

繰り返しになりますが、裁判外の交渉では、多くの考慮要素が複雑に絡み合い、何を他方当事者が重視しているのかを良く分析する必要があり、また、裁判外の交渉において、考慮要素の価値(情報の価値)は訴訟段階以上に重要になります。したがって、「相手が何を望み、どの部分を重視しているのか」を、交渉の序盤につかんでおくことは、紛争を早期解決に向かわせる重要なポイントです。


裁判外での交渉をする場合、多くの弁護士は、裁判外で、複数回、相手方と書面のやり取りをしています。というのも、書面のやり取りをする中で、相手方が、「徹底的に争う意向」なのか、それとも、「請求はするが、(早期解決などのために)裁判外での示談(解決)を考えている」のか、一定の方針が見えてくることが多いからです。また、書面のやり取りの中で、一定の情報が得られることで、相手方の利益が何なのか、その利益の中で何を重視しているのかを考えることができ、交渉の糸口が見つかるからです。

上の例でいうと、C社D社のいずれの立場でも、裁判に至った場合、証拠不足などで、一定の敗訴リスクを負うことになります。また、D社にとって、C社のような取引先がほかにも出てくると大変ですから、D社としては、懸命に「従業員X」を探すでしょう。Xが見つかりそうとなればD社がXに対して賠償を求めることは(理論上)可能ですから、その場合D社がC社の損害を「かぶる」こともありうるという前提で、C社も交渉を(有利に)進めることも可能となります。

逆に考えると、「裁判にしたくない」と考えている側が、「(書面等を含む)やり取り」が打ち切られるという事態は、回避しなければなりません。やり取りを継続しなければ、当然、お互いの利益・妥協点を探ることは不可能になってしまいます。

以上のような交渉は、弁護士が介入しなくても可能ですが、弁護士が介入した場合、戦略的にあえてこちらの情報を開示することで相手方からの反論を得たり、弁護士が一定の法的見解を明確にした上で書面を郵送したりすることで、相手方の反応を見るなど、バリエーションが増えることになります。










繰り返しになりますが、交渉のポイントは
  ①WinWinを見つけること、つまり、利益共通を探ること
  ②利益共通を探るには、相手方に立場になって考えること
  ③交渉の序盤では、特に(双方当事者の)情報が重要であること
  ④継続的なやり取りの中で、情報を集約・分析し、利益状況を正確に見極め、「落としどころ」  
  を探ること

1つ付け加えるとすれば、
⑤交渉の「落としどころ」に正解はありません。ですから、正解がないという前提で、広い視野を持ち、手持ちの交渉カード(選択肢)だけではなく、他の交渉カードも探し、場合によっては創りだしていく。他方で、正解のない「落としどころ」の判断ですが、その中にも明らかな不正解は紛れています。

「適切な落としどころ」を見極めるには、日々、情報に対するアンテナを広げ、日々の鍛錬(実践の経験を積む中で、また、書籍等を読んだりして、相手の立場になるための想像力を広げる工夫)が不可欠であることは間違いありません。