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弁護士 小田 康夫
2022.01.05

遺留分とは何ですか?

最近、事業承継セミナーを実施しています。
案外、遺留分制度を正確に理解している人は少ないと感じます。
「遺留分とは何か?」
これに応えるには、いくつかの前提を説明しなければなりません。

①法定相続分

②遺言書

③遺留分

こんな順番で考えていかないと、適切な理解ができないからです。


最近、セミナーなどで、事業承継のことをお話する機会が増えました。
事業承継を考える際、よく話の最初に
「何もしなかったら、法定相続になってしまいますよ!」
と言います。

例えば、
父母と長男の3人のケースで、父が死亡した場合、
母(配偶者)と子(長男)が相続人となりますので、
法定相続分は妻2分の1、残りの2分の1となります。
母 1/2
長男1/2
の相続権を得ることになります。

父の相続財産が預貯金1000万円のケースですと、
母が半分の500万円
長男が半分の500万円
法定相続することになります。
同様に、父母と長男二男の4人のケースですと、
子の2分の1の法定相続分を子らの頭数で分けることになります。
母 1/2(500万円)
長男1/4(250万円)
二男1/4(250万円)

このケースで、「長男に全事業を承継させる予定だ」としても、法律上、二男には相続財産のうち1/4を取得する権利が残ります。


ところで、遺言は、法定相続分にかかわらず、被相続人が遺産の分け方等を指定できます。
例えば「相続財産を全部長男に相続させる」などの遺言書を作成すれば、「長男に全事業を承継させる予定だ」という父の意向を実現させることができます。

ちなみに、遺言書は、
自筆(手書き)でも作成することが可能ですが、
自筆証書遺言はちょっとしたミスで、無効になってしまいます。
遺言内容を専門家にご相談のうえ、公正証書で作成することがベストです。
何らかの事情で公正証書を作成することができない事情がある場合は、法務局での遺言書の保管制度を利用するようにしましょう。


さて、遺言書において、「相続財産を全部、長男に相続させる」とされた場合、母や二男の立場で相続権をすべて失ってしまうとすると、生活ができないかもしれません。
そこで、(ようやく)でてくるのが遺留分というわけです。
遺言の内容は原則として自由ですが、遺言等によって、法定相続分の一定の割合すら確保されていない場合には、最低限の請求ができる権利が遺留分と言われるものです。

先ほどのケースで、法定相続分は、繰り返しになりますが、
母が1/2(500万円)
長男1/4(250万円)
二男1/4(250万円)
でした。

遺留分は、この場合、1/2を掛けることで計算します。
母 1/2×1/2=1/4
長男1/4×1/2=1/8
二男1/4×1/2=1/8
となります。

「相続財産1、000万円を全部、長男に相続させる」という遺言があったとしても、
母と二男は長男に対して、
母 1/4(250万円)
二男1/8(125万円)
の遺留分を請求することができます。

民法改正もあり、令和元(2019)年7月1日以降の相続については、遺留分侵害額請求権を行使するという言い方をします。なお、この権利は消滅時効にかかります。相続の開始及び「遺留分を侵害する贈与又は遺贈」があったことを知った時から1年又は相続開始から10年を経過したときに時効によって消滅してしまうので注意が必要です(民法1048条)。

遺留分の計算方法についてですが、遺留分を請求するにあたっては、
●相続時に存する財産に加え、
●例えば、父が長男に対し「生前に」贈与していた財産も加えて
計算をします。

例えば、父が
●死亡時に存在する、1000万円の預貯金に加え、
●死亡する5年前に、長男に結婚資金として1000万円を贈与していた場合

母と二男はその金額も遺留分計算の基礎にすることができます。
そのため2、000万円を相続財産であると考え、
母 1/4(2000×1/4=500万円)
二男1/8(2000×1/8=250万円)
の遺留分侵害額請求権ができます。

もう一歩進みまして、今回の民法改正で、遺留分の期間制限に関わる条文が追加されています。もともとさきほどの長男に対する贈与については5年前でも、15年前でも、30年前でも遺留分計算の基礎にすることができました(無制限でした)。
しかし、民法改正により原則として相続からさかのぼって10年以内の贈与に限定しています(民法1044条3項)。例えば、
先ほどのケースで、父が
●1000万円の預貯金に加え、
●死亡する15年前に、長男に結婚資金として1000万円を贈与していた場合

この15年前の贈与は、原則、遺留分の基礎になりません。
そのため、遺留分として請求できるのは
母 1/4(250万円)
二男1/8(125万円)
となります。

さらに微妙なケースですが
父が相続時に有していた1000万円の預貯金(遺産全額)を愛人に遺贈(遺言書で「全額愛人に渡す」)した場合でも、遺留分の請求は可能です。
母 1/4
長男1/8
二男1/8
遺留分は法定相続人に対する最低保証ですから、愛人などの第三者に遺贈されても請求は可能です。ただし、さきほどのケースのように、長男が父から生前に贈与を受けていた場合、計算上、遺留分侵害がなく、請求が認められないケースがありえます。