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弁護士 小田 康夫
2021.01.06

心証開示後に和解を蹴る?

証人尋問の終了後、裁判所の心証開示がされることがあります。

例えば、原告から「100万円を返せ!」という請求がなされ、被告としては、「100万円は借りたものでない、贈与を受けたものであり、もらったものだ!」という反論をしているケースがあるとしましょう。裁判は多くの場合、時間がかかります。数か月の間、原告と被告双方の弁護士から、書面で主張と反論が繰り返されます。その後、原告と被告本人が裁判所に呼ばれ、裁判官が直接、話を聴きます。原告と被告の話を聴き終わり、つまり、尋問が終わった直後に、原告本人と原告の弁護士、そして、被告本人と被告の弁護士のそれぞれが、「別々に」「個室に」呼ばれ、裁判官から心証(現時点での判決見込み)が開示される場面があります。

心証開示の目的は、法文上、はっきりしませんが、通常、和解に向けた話し合いを進めるために行われます。原告本人や被告本人が、長い裁判を経て、尋問を行い、言いたいことを言ったという段階に至っているので、証人尋問終了直後は、和解の機運が高まっていることも多いでしょう。その際、裁判所が、“双方の”当事者に対し「あなたの主張には●●という部分が、弱い。だから、あなたの主張は認められない可能性が高い」「50万円でどうか」と言われた場面を想定してみましょう。

こう言われた場面で、原告本人・被告本人の立場に立つと、裁判所が提示した和解案を「蹴って」判決に進むことはなかなかしにくい事情があります。というのも、原告本人は、和解案を蹴って判決に至った場合、本当に、自分の請求が全額認められるか否か、わかりませんし、ゼロとなるかもしれません。逆に、被告本人としても、和解案を「蹴って」判決となったら、100万円全額が認められてしまうかもしれません。確かに、和解をせずに判決になっても、その判決に不服があれば、控訴はできますし、控訴の結果、判決が覆ることはあります。しかし、当然ですが、そのままの一審判決どおりの判決が下されることもあります。そのままの判決が下された場合には、控訴のための裁判費用や弁護士費用がさらに無駄になってしまいます。

実際の心証開示の場面で、裁判官がどのような話を相手方にしているのかは、他方の弁護士にはわかりません。前述したように、それぞれが、「別々に」「個室に」呼ばれるため、裁判所が、相手側にも、こちら側にも「●●という弱い部分がある、あなたの主張は負ける可能性が高い」と言っていたとしても、それがわからないのです。こんな話をすると、「●●という弱い部分がある」という指摘を“双方に”しているとすれば、裁判官が、矛盾する行動(二枚舌!)を取っており、それ自体がすぐさま問題行動であるように思ってしまうかもしれません。確かに事案によっては、「裁判官は二枚舌だ!」と指摘できるものもあるかもしれません。しかし、実際の裁判では、通常、双方にとって「弱い部分」があり、双方の弁護士はその“手当て”をしながら、裁判を進めていきます。手当てが不十分で、弱い部分が最後に残ることもあります。裁判官は同様の事案を何件も審理していますから、類型的に「双方の弱い部分」がわかることが多く、指摘は通常、的を射ているものが多い印象です。裁判官の和解案を無視しても判決で「弱い部分」が露呈して指摘通りの判断が下る可能性は高いでしょう。

ただし、中には、心証開示で指摘された「弱い部分」を判決に反映しようとも思っておらず、当事者双方に「弱い部分(に見える)」を指摘するだけ指摘し強引に和解をさせようとしただけであろう、というケースに出くわすことがあります。裁判にまで至るケースは、原告本人も被告本人も、「勝っても負けても、真実を明らかにしてほしい」と望んでいるケースが多いのですが、そうである以上、心証開示においても、当事者双方に対し誠実に、審理の経過や実際の落としどころを熟慮して、実際の判決書に記載する通りの心証が開示されることが望まれます。最初の事例でも、この場合、原告の請求「100万円を貸した」という事実が存在することは明らかであり、贈与ではないという心証であるのに、裁判所が尋問直後、当事者双方に「50万円ではどうか」という話がなされることは不適切であるといえます。この場合、原告の請求「100万円を貸した」という事実が存在することは明らかであり、贈与ではないという判決を書く(書こうとしている)なら和解の心証開示は少なくとも真実に近づけた金額(例えば、90万円)であるべきです。仮に、心証開示の場面で、判決に至った場合の理由の説明が明確ではないのであれば、強引な和解をさせようとした可能性があると考える余地があります。

なお、近年は、弁護士特約が普及してきており、曖昧な心証開示があるか否かに関わらず、控訴の費用(弁護士費用を含む。)を気にする必要がないために、判決や控訴のハードルが低くなっています。そうなると、心証開示段階の和解案(和解金額)の提示はより的確な算出が要請される、と言えるかもしれません。というのも、心証開示段階で、少しでも不服があれば、(控訴に関わる費用を気にする必要はありませんから)和解案に乗らずに判決を求めるケースが増えるためです。

このように和解一つとっても、勝訴見込みや弁護士特約の有無、心証開示段階の理由付けの明確さ等、事案により、考慮すべきことは相当数あります。