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弁護士 鍛冶 孝亮
2020.09.16

法廷とマスク

1 先日、とある民事事件の尋問手続がありました。
  新型コロナウイルスの感染拡大があってから初めての尋問手続です。
  3密の関係でいえば、法廷は一般的に窓がないため外の空気を入れて換気することができません。そして、ニュースになるような事件の場合には、傍聴席が傍聴人で密集します。
  この点、裁判所の入口には消毒液が設置されており、「不使用」の用紙が貼られ傍聴席は座れないようになっており、傍聴席に人が密集しないように対策がとられていました。また、一人の尋問が終わるたびに休廷となりこまめに休憩をとるよう裁判官が配慮されていました。
  これらの感染対策は裁判所が行っているものになりますが、関係者が自発的に行っている感染対策があります。それはマスクの着用です。
  今回の尋問では、事前や当日、裁判所からマスクの着用を求められることはありませんでしたが、当然のように関係者は全員マスクをして尋問に臨んでいました。
  関係者全員が裁判中にマスクをしている、1年前には想像もできなかった光景です。
  今回は法廷とマスクに関することを書いていきます。
 
2 まず、法廷内でマスクをしていない場合に、裁判官からマスクの着用を求められた場合、従わなければならない根拠はあるのでしょうか。
調べてみたところ、関係する法律や規則は、以下のとおりです。
 (裁判所法71条2項)
 裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
(法廷等の秩序維持に関する法律2条1項)
 裁判所又は裁判官(以下「裁判所」という。)が法廷又は法廷外で事件につき審判その他の手続をするに際し、その面前その他直接に知ることができる場所で、秩序を維持するため裁判所が命じた事項を行わず若しくは執つた措置に従わず、又は暴言、暴行、けん騒その他不穏当な言動で裁判所の職務の執行を妨害し若しくは裁判の威信を著しく害した者は、二十日以下の監置若しくは三万円以下の過料に処し、又はこれを併科する。
(民事訴訟法148条2項)
 裁判長は、発言を許し、又はその命令に従わない者の発言を禁ずることができる。
(刑事訴訟法288条2項)
裁判長は、被告人を在廷させるため、又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができる。
 これらの条文上は、大声を出したり暴れるなどの行為で職務執行の妨害や法廷秩序を妨害した場合には、退廷を命じられることや過料に処せられるとなっていますので、単に感染症対策のためにマスクの着用を求められたもののこれを拒むだけでは退廷などを命じられることないと考えます。

3 冒頭の話は民事裁判のことですが、刑事裁判である裁判員裁判で、裁判官からマスクの着用を求められた弁護人が拒否し、裁判が一時中断したニュース報道がありました。
  先ほど述べたように、マスクの着用は任意と考えられるため、マスク着用を拒否したとしても、退廷を命じられることや過料に処せられることはないと考えられます。
  一方で、感染の不安の点からすれば着用しなかったことは非常識だと意見を述べた補充裁判員がおり、ネット上でも弁護人がマスクをしないのであれば裁判員に選ばれても辞退したいというようなコメントを見かけました。
  弁護人の役割は、被告人の利益のために最善の弁護活動を行うことです。
  特に裁判員裁判の場合、裁判員に主張内容を十分理解してもらうために、いかにうまく表現すべきかが重要となってきます。
証人や被告人への質問の際や裁判員へ弁護人の主張を伝える際には、表情を含めた身体全体で質問や表現すべき場面も想定されますので、「被告人の人生を決める重大な裁判であること」、「着用すると全力で弁護するのは難しい」として、マスク着用を拒否した弁護人の考えは理解できます。
もっとも、マスクの着用に関するやり取りで、裁判が延期し、判決日が先にしまうことは被告人の不利益にも繋がることになります。特に裁判員裁判では、裁判のスケジュールは詳細に定めているため、このような事態が起きるとスケジュール上大きな支障が生じます。
弁護人として、裁判時にはどうしてもマスクを外して話をしたいということを考えているのであれば、裁判員裁判の場合には事前に進行を協議する場がありますので、その場で裁判官や検察官に伝え、当日混乱が起きることがないよう事前に調整しておく必要があると考えます。
それでも、裁判員の中には、マスクを着用していない弁護士の態度自体に不信感を持ち、弁護人の主張を説得的なものとして聞き入れてくれない人もいるかもしれません。
弁護人の態度という事件の中身とは関係ないところで、裁判員の印象を悪くすることは被告人にとっても良いことにはなりません。
  最近では、発言者の表情を見ることができるよう透明のアクリル板を法廷に設置したり発言者はフェイスシールドをつけて話すようにし、裁判員裁判を実施する裁判所もあると聞いています。
このような対策がなされているのであれば、マスクを着用していなくても、感染拡大の不安も減少します。
弁護人としては、単にマスクを拒否するのではなく、フェイスシールドを着用することや裁判所にアクリル板の設置してもらいマスクをしなくても感染予防が徹底された環境で裁判に臨むということも必要だったのではないでしょうか。

4 冒頭にも書きましたが、関係者全員がマスクしている法廷は1年前には想像できませんでした。数年後の法廷も関係者がマスクをしたりアクリル板が設置されているような状態なのか、それとも新型コロナウイルスの感染拡大前の状態に戻っているのかまったく予測できません。
  現在は徹底した感染対策をした上で充実した審理ができるよう法曹関係者は最善を尽くし、一日も早く以前のような法廷の姿に戻ることを願っています。