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弁護士 小田 康夫
2020.08.05

事実を認定するということ~ハラスメント対応~

先日、
経営者向けに、パワハラの講義をしました。

冒頭、
パワハラに関する問題意識共有のため、以下の動画
https://www.youtube.com/watch?v=qVGM6FE30ww
(日弁連公式動画チャンネル/法律相談ムービー「ハラスメントA面」)
を流し、「パワハラの被害者側の視点で」パワハラがどのようなものかを感じてもらいました。

講義内容は、

概要
○ハラスメントの多くはセクハラとパワハラ
○業務上の指導だとしても手段の相当性を超えればパワハラ
○パワハラの具体例を紹介
○パワハラを契機にうつ病を発症した裁判例などを紹介
○裁判例の一つは「(企業としては)パワハラの訴えがあっときには、その事実関係を調査し、調査の結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負う」

この事実関係の調査の雰囲気を感じてもらう為に、もう一つの動画
https://www.youtube.com/watch?v=Zera-yk_2hQ
(日弁連公式動画チャンネル/法律相談ムービー「ハラスメントB面」)
を見てもらい、「パワハラの加害者側の視点で」パワハラを考えてもらいました。

講義終盤では、
○企業として、加害者とされた従業員に対し、どのような対応が適切なのか
〇「事実」調査の難しさについて簡単に説明した後、
○そもそもパワハラを防ぐためにはどのような工夫があるかを考えてもらいました。







以前のコラムでも紹介したとおり(http://www.ak-lawfirm.com/column/1210)、いわゆるパワハラ防止法が施行され、企業としては、
■相談窓口をあらかじめ定めること
■職場でハラスメント被害があった場合は、「事実」関係を確認すること
■事実確認ができた場合には、速やかに被害者に適切な対応すること
が求められます。

講義では簡単にしか触れられなかったところの補足でもあるのですが、
企業として、ハラスメント対応が難しいのは、
正確に「事実」調査をしなければならないところです。
というのも、
被害者(例えば、部下)が「パワハラがあった」と相談窓口に通報しても、
加害者(例えば、上司)が「そんなことはしていない」と反論した場合、
会社としては「どのように事実を認定すればよいか」、が悩ましいからです。

仮に、
部下を信じて、
上司を懲戒処分とした場合、
上司が「懲戒処分は間違っている」と裁判所に訴えて、
裁判所が「事実調査にミスがあり、懲戒処分が重すぎる」と事後的に判断することはありえます。
逆もまたしかりです。

事実が何か。
言い換えると、
どのように事実を調査し(調査手法)
事実の存否を認定するか(事実認定)。
非常に難しい問題です。






少し話は変わりますが、
裁判でも
「法律がこうなっている」
「法律を適用したらこうなる」
という問題はあまり大きな問題になりません。

むしろ、
「事実はAだった」いや「本当はBだ」
という形で、
「事実認定」が問題になるケースが多いのです。

実感としては、
事実が争いになる場合が9割、
法的な評価が争いになる場合が1割、といったところ。

意外かもしれませんが、
弁護士(や裁判官、検察官)は「法律家(ほうりつか)」などと言われますが
「法律」が問題になることはむしろ少なく、
弁護士の多くは、いかに事実を認定するか(認定させるか)を日々考えています。
弁護士(や裁判官、検察官)は、法律家というより、「事実認定家」なのです。






さて、話を戻しますと、講義でも話をしましたが、
現代の企業は「裁判所」のような機能が求められています。

一般に、裁判では
①当事者双方に主張させ
②争いのない事実はそのまま事実を確定させ
③争いのある事実は客観的な証拠を基本にして事実認定をし、
④必要があれば証人尋問や当事者尋問などの供述証拠も用いて事実認定します。

同様に、ハラスメントの事実の有無を見極める企業は
①被害者・加害者の当事者双方から事情を聞き(日時・場所・状況)、
②双方の話の中で、争いのない事実をまとめ
③争いのある事実については客観的な証拠をもとに事実関係を明らかにし
④客観的な証拠がなければ、当事者や第三者からより詳細な話を聞く
などにより事実のカタチを明確にしていく必要があります。

事情聴取にあたっては、
〇録音データやメール・ラインのやり取りなど客観的な証拠をまず保全する
〇当事者の話は、書面でまとめておき、裁判になった場合に備えて適切に保管しておく
〇当事者や第三者から聴取をする際は、公平・中立的な立場で聞き、当事者と利害関係があるか否かを確認しておく
など注意点があります。

以上の事実調査を経て、加害者・被害者のどちらのストーリーが客観的な事実等に合致するかを適切に事実認定し、企業としては一定の方針を決めます。そして、方針決定にあたっては、後に、当事者や第三者が見ても、納得のいく判断プロセスを踏む必要があります。独善的に一方当事者に肩入れしないような仕組みを採用しておきましょう。例えば、一定の懲戒処分をする際は、内部統制委員会等の組織に諮問するなど判断の公正さを担保する手法を確立しておく必要があります。










ハラスメントがあったとされた場合、当事者双方に全く不満がない対応というのは非常に困難です。しかし企業としては適切な対応をしなければなりません。この緊張状態の中で、企業は、プロセスの公正さを確保しながら、事実のカタチを明らかにしていく事実認定をしなければなりません。確かに、事実認定の手法はそれだけで何冊も本が書けるもので、非常にセンシティブな判断が迫られる企業の負担は重いですが、ハラスメントを認定するプロセスの公正さは、公平・中立な第三者委員会を設置するなど企業としても比較的対応がしやすいものに属します。まずは企業としてハラスメント認定プロセスの公平さを担保する社内委員会を構築することなど、いわゆるパワハラ防止法の成立、働き方改革が進む今、ハラスメント対策をもう一歩進めてみてはどうでしょうか。