弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 小田 康夫
2020.07.8

牛飼いと労働基準法(労基法)

酪農の経営者も誰かを雇う場合には、
労基法を無視できません。
「酪農には労働基準法の適用がありません」とか
「酪農従事者はいわゆる労働者ではない」とか
そんな噂もあるようですが、
それは間違い。

誰かを雇えば労基法の適用があります。
ただし、適用が除外されている規定があります。
これは案外、知られていません。

①労働時間規制の排除
 通常、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはできません(労基法32条)。
しかし、酪農を含む農業や漁業などは適用が除外されています(労基法41条)。したがって、酪農経営者は、従業員を、1日9時間でも10時間でも、また、1週間に50時間でも60時間でも労働させることができます。1日10時間労働させた場合、2時間分の残業は原則、労基法32条違反となり、例外的に労基法36条で定める協定(いわゆるサブロク協定)があれば合法となります。酪農の場合は、基礎となる労基法32条が適用されませんから、36協定がなくとも合法であり、労基法上、問題がありません。

②割増賃金規定の排除
 通常、1日8時間、1週40時間を超える労働、法定休日と深夜に行った労働については、割増率を乗じた賃金を支払わなくてはなりません(労基法37条)。しかし、酪農を含む農業や漁業は適用が除外されています(労基法41条)。したがって、酪農経営者は、8時間を超え、更に2時間残業をさせても、割増賃金を払う必要がありません。働き方改革により、割増賃金率は一部更に高率となりましたが、その適用もありません。当然ですが、2時間分の賃金は支払う必要があります。

③休憩、休日規定の排除
 通常、労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を与えなくてはなりません(労基法34条)。また、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません(労基法35条)。しかし、酪農は適用除外(労基法41条)。ただし、ここがややわかりにくいところですが、有給休暇の規定は適用があります。
 例えば、毎週必ず日曜日に休日を与える必要はありませんが、6か月のあいだ、毎日勤務していた労働者が、有給休暇の取得を希望する場合には、原則10日間、休暇を与える義務があります(労基法39条)。ただし、酪農の場合6月中旬から7月上旬は牧草づくり等で忙しく、その「時季」に有給休暇の申請があっても農閑期にずらす「時季」変更権があると考えてよいでしょう(労基法39条5項但書)。

このように酪農業は自然や生き物を相手にするものであるため、基本的に「休み」がとれません。以前のコラムでも触れましたが、私の実家は酪農業を営んでいたため、両親には休みがありませんでした。実際、牛の出産となるのは深夜や早朝となることも多く、また、難産もあり、勤務時間は長時間化することが多いのです。労働者には気の毒なのかもしれませんが、牛を扱う以上、誰かが牛を見て健康状態や子牛の発育状況を日々把握する必要があるのは間違いありません。毎日乳絞りをしなくては、牛も乳が張ってしまって、乳房炎などの病気になってしまいます。夏場はトラクターに乗ってよく晴れた日を狙って草を刈り、乾燥させ、収穫、搬送、サイロやD型倉庫などで備蓄する。そうやって寒く長い冬に備えなくてはなりません。やはり大変な仕事です。酪農経営者はもちろん、少なくとも、酪農に従事しようとする方も、労基法の適用除外規定を十分に理解しておく必要があります。

ただ、時代は着々と変化していきます。
適用除外規定には、かつて、林業が含まれていました。しかし、機械化も進み、現在では、労基法の適用除外から「除外」されています(労基法41条)。現在でも、農業における集約化、機械化、IT化が更に進んでいます。将来、農業にも労基法の適用除外が「除外」される日が来るかもしれません。
酪農にも「働き方改革」の波がじわりじわりと押し寄せてきています。
経営的にも、法的にも、次世代の酪農従事者の「働き方」を考える必要がありそうです。