弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 鍛冶 孝亮
2020.06.18

後医は名医

1 医学会には、「後医は名医」 という格言があります。
  初めに診察・治療を行っていた医者よりも、後から診ることになった医者のほうがこれまでの経過を把握し、名医のように的確な診察や治療を行うことができます。このように、後医は有利な立場にいるのだから、前医の治療内容を安易に批判してはいけないという意味がこの格言には込められています。

2 セカンドオピニオンとは、主治医以外の医者に意見を求めるという医学会の言葉でしたが、弁護士業界でも相談者が複数の弁護士に意見を聞くということは珍しいことではありません。
  この場合、2つのパターンに分けることができると思います。
  1つ目は、依頼前の相談の段階で他の弁護士の意見を聞くケースで、2つ目は、依頼後に他の弁護士の意見を聞くケースです。
  相談段階の場合、その時点で相談者が把握している事実関係や保有している資料などを踏まえて弁護士は意見を述べることになるため(相談を受ける弁護士に同じ説明をし、同じ資料を示していることが前提です)、基本的にはどの弁護士に相談しても同じ結論になるのではないかと思います。
ただし、事実を法律の条文に当てはめると結論が出るというような事案の相談に限られます。
事例を紹介し複数の弁護士に見解を聞くと異なる見解が出てくるテレビ番組もあるように、法律の解釈や事実の評価が問題となる事案では、必ずしも複数の弁護士が同じ結論を出すわけではありません。
  また、特別な分野の事案については、相談を受ける弁護士の知識や経験の有無が回答内容に関係してきます。例えば、医療、行政、公害など専門的な知識が必要なトラブルの場合、そのような事件を取り扱っている弁護士とそうではない弁護士では回答内容も異なります。
また、見立てを強気に行う弁護士なのか、慎重に行うのか弁護士なのかで、結論が異なる場合もあります。
  弁護士に依頼をするのは一生に一度だけという人もいると思いますので、初めに相談にのった弁護士がしっくりこないのであれば、時間や費用をかけても他の弁護士に相談し、一番信頼できる弁護士に依頼をすべきです。

3 依頼後に他の弁護士の意見を聞くケースで、既に相手方と交渉を行っていたり、法的手続がとられた場合には、新しく相談を受ける弁護士は、相手方の主張、相手方が保有している資料、裁判所の見解といった情報を把握した上で事案を分析できるため、まったくこれらの情報がないときに相談を受ける場合に比べると的確なアドバイスができることになります(この場合、先任の弁護士も依頼に得られた情報に基づいて方針の変更などを依頼者に伝えていることもあります)。
  もっとも、このような情報を踏まえても依頼者が希望していない意見を述べることもあり、セカンドオピニオンの弁護士は、必ずしも「名弁護士」といわれることはありません。

4 既に依頼をしているにもかかわらず、他の弁護士の意見を聞くということは、先任の弁護士のやり方に不満を持っていることが多いと思います。
  例えば、依頼者として主張してほしい事実や出してほしい資料があるのに、先任の弁護士が動いてくれないという不満を抱くことも考えられます。
  ただ、その主張を行うことや資料を提出することでトラブルの解決が遠くものであれば、先任の弁護士は依頼者の利益のために活動しているだけであり、どうして依頼者が希望する活動を行わないのかという点について、弁護士と依頼者との間のコミュニケーションが不足しているだけともいえます。
  このような不満を抱いている依頼者がセカンドオピニオンを求めてきた場合、弁護士としては、依頼している弁護士の活動意図を考えられる範囲で説明し、依頼している弁護士と関係改善を図るよう勧めることになります。
  依頼後に他の弁護士の意見を聞く原因の多くは、事件処理としては問題がないものの依頼者と弁護士のコミュニケーションが不足しているからではないかと思います。
  普段からコミュニケーションをとり、信頼関係を築いているのであれば、他の弁護士に意見を聞くということはなくなると思います。

5 セカンドオピニオンは、依頼者の権利であり、否定されるべきものではありません。  
  しかし、弁護士は、他の弁護士が受任している事件に不当に介入していけないことになっています(弁護士職務基本規程第72条)。具体的には、先任の弁護士の能力不足などを批判し、先任の弁護士に依頼したままでは有利な解決方法は望めないなど不安をあおり、相談した弁護士に事件を依頼するよう誘導する行為などが禁止されています。
  このような弁護士活動のルールがあることからも、先任弁護士の事件処理が依頼者にとって不利益であることが明白であるよう例外的な場合を除いては、先任の事件処理の内容の是非を、セカンドオピニオンの弁護士が判断することが消極的になる面も否定できません。
  そして、セカンドオピニオンを求められた弁護士は、提供された事実関係や資料の範囲内でしか意見を述べることはできず、法律の世界は絶対的に正しいと判断できることはないため、回答内容について限界もあります。
  日本医師会が発行している医師の職業倫理指針(平成16年2月発行)では、次のようなことが書かれています。
  ・ 不用意な他医への批判は、医師としての品性をおとしめ医師の信頼を傷つける行為であるばかりか、患者に無用な不安を与えるなど、思いもかけぬ大きな影響を与えかねないため慎むべきである
  ・ 古くから「前医の批判をすべからず」「後医は名医」などといわれ戒められてきた。これは上述の理由のほか、前医と後医では診察時の状況や得ている情報が往々にして異なっており、前医が患者に注いだ努力と専門的判断を後医がにわかには判断できないことも多々あるために、前医への批判が結果として誤っているか不当なものであることも多いからである。

「前医が患者に注いだ努力」とありますが、先任の弁護士がどれだけ依頼者に努力を注いできたのはセカンドオピニオンの弁護士は判断することができません。

  以上の点を踏まえると、セカンドオピニオンに至ることがないように依頼する時点で弁護士は吟味して選ぶこと、依頼中に不満が生じた場合にはまずは依頼している弁護士に意見を伝え信頼関係の改善を図るということが望ましいのではないでしょか。