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弁護士 鍛冶 孝亮
2020.03.12

世に盗人の種は尽くまじ

1 「石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽くまじ」
  大泥棒石川五右衛門のj辞世の句といわれています。
  海辺に無数とある砂がなくなることはあっても、世の中から泥棒がいなくなることはないであろうという意味ですが、処刑される前に石川五右衛門はどのような気持ちでこの句を読んだのでしょうか。
  石川五右衛門の言葉どおり、物が溢れ豊かになった現在も泥棒がなくなることはありません。
  そして、これまで考えられていなかった方法の犯罪や違法取引が生まれ、インターネットを通じて多くの被害者が発生しています。
  特に無登録で貸金業を営み、違法な取立てや利息を受けっている闇金業者は、その実態を偽装して貸付を行っているため被害に遭う人も少なくなく、規制や取締りをしても新たな法の抜け穴を見つけて活動しています。 

2 「給料ファクタリング」という取引を知っていますか。
  まず「ファクタリング」について説明します。
簡単にいうと売掛金を現金化するサービスです。
  Aという会社がBという会社に商品を売却したことで売掛金100万円が発生した場合、支払期限とならなければ100万円を支払ってもらうことはできません。
しかし、ファクタリング会社にこの売掛金を買い取ってもらえば、支払期限前に現金を取得することができます。ただし、買い取り金額には、ファクタリング会社への手数料が引かれます。
  このファクタリング自体は、法的に有効な取引だとされています(ただし高額な手数料を取る業者もあり注意が必要)。
  「給料ファクタリング」とは、個人の給料を受け取る権利が買い取りの対象とされているものです。
個人が勤務先から支払われる給料を受け取る権利を業者が個人から買い取り、個人は給料が支払われたらその給料を業者に支払うというものです。
例で説明すると、
① A(業者)とB(個人)との間で、BがC(Bの勤務先)から支払われる給料(20万円)を受け取る権利をBはAに売り、AはBに対してその代金として手数料(給料の20%、4万円)を控除した16万円を渡す。
② Bは給料支払日に、Cから支払われた給料(20万円)をAに渡す
 というものです。
  昨年から広まったとされる取引で、業者はインターネットを通じて広告し、正規の貸金業者から借入ができない人も利用することができ、すぐに業者から金銭が支払われるため利用している人も多いようです。
 
3 この取引の内容を聞いたときに、給料を受け取る権利の売買という形式をとっているだけで、単にお金を貸し付けているだけであると思いました。給料日前にお金を貸して、給料日に返してもらうという通常の貸付と何ら変わることはありません。
  そもそも、売掛金を売買する場合と異なり、労働基準法で給料は勤務先が雇用者に直接支払わなければならず、給料を受け取る権利を第三者に譲渡しても、その第三者が勤務先から受け取ることはできないとされています。その点からも、給料を受け取る権利を売買するという取引自体おかしいものなのです。
  そして、給料ファクタリング業者がやっていることは闇金と同じです。
闇金は、お金を貸す際、貸した金額は5万円としても、実際に振り込まれるのは利息を引き4万円しか支払わないということをしています。
給料ファクタリングでも給料を受け取る権利の代金として支払われる額は、手数料という名目で10%から20%が控除されます。
  支払期限までに支払がなければ、勤務先に給料の譲渡を受けていると連絡をします。会社だけでなく家族にも連絡することもあるようです。この点も闇金も同じです。
  貸金業者として登録していることの有無にかかわらず違法な取立行為を行うことは犯罪ですし、法律の定めを超えた利息を受け取ることも犯罪です。
しかし、給料ファクタリング業者は、あくまでも給料を受け取る権利の売買であり貸付を行っているわけではないため、貸金業法、利息制限法、出資法といった法律の適用はないと主張しています。
 中には、顧問弁護士の指導を受けながら営業しているのだから、違法ではないと言い張る業者もあるようです(本当に顧問弁護士がいるのかどうか疑わしいですが)。
 そして、返済をしない利用者に対し、民事訴訟を提起します。
 2020年2月13日の朝日新聞の記事(「給料ファクタリング「ヤミ金の再来」 被害急増、裁判も」)で、この問題が取り上げらえていました。
  https://www.asahi.com/articles/ASN2F2SGVN1SUTIL054.html
  記事では、都内の給料ファクタリング業者が東京地裁へ不払いの利用者を訴えた民事裁判が紹介されています。
  担当裁判官は、労働基準法の直接払い原則を指摘し、給料ファクタリングの法的根拠について業者に問いただしたところ、業者側は根拠ある主張ができず、裁判は結審したようです。

4 2020年3月5日、金融庁が「給料ファクタリング」についての見解を示しました。
  金融庁は、取引の実質は業者と個人との間の貸金であり、このような取引を行っている業者には貸金業法が適用されるという見解を示しました。
  貸金業者が適用される場合には、登録しなければ貸金業を行ってはならないことになりますし、様々な制約を受けることになります。
  金融庁の見解は、取引の実質を着目した至極真っ当なものだと思います。
  ただし、あくまでも一般的な見解を示したものであり、法的な判断ではないため、先ほど紹介した裁判の判決が注目されます。
  業者は、給料を受け取る権利の売買と称して、法律の適用を免れようとしているに過ぎませんので、判決も金融庁の見解と同様の内容となることが予想されます。
  これまでグレーと評価されてきた給料ファクタリングも、裁判所が違法と判断することで、下火となり被害に遭う人がいなくなることを切に願います。
  「給料ファクタリング」は今後なくなったとしても、間違いなく新たな手法の犯罪や違法取引が発生するはずです。
  このような観点から、石川五右衛門の辞世の句を考えると、決して油断すべきではないという意味が込められていると感じました。